昨今の自転車ブームの中、「自転車ツーキニスト」と呼ばれる自転車通勤者が増えている。会社としては、自転車通勤のリスク対策を整備した上で、「自転車ツーキニスト制度」(自転車通勤制度)を導入すれば、従業員にとっても、企業にとっても魅力となる可能性があるだろう。
自転車ブーム到来! 「自転車ツーキニスト」(自転車通勤者)を許可する場合の留意点とは。

自転車通勤のリスクと留意点

近年、自転車の多様な広がりを見せている。健康志向の高まりや、エコ意識、また地震等災害時での応用性などで、自転車ブームとも言われる。趣味の領域では、長い距離を走行したり、街を自転車でぶらぶらと散歩する「ポタリング」が流行しているが、会社通勤に自転車を利用する「自転車ツーキニスト」も増加している。

 従来、自転車を通勤に利用する従業員は、勤務地近くに住居のある一部の社員やアルバイト、主婦パートなどが多かったであろう。ただ、「自転車ツーキニンスト」とも呼ばれる従業員の場合、長距離を自転車通勤するケースが多いようだ。長距離であっても自転車通勤を認めることは、従業員にとっても魅力であり、企業イメージのアップにもつながる可能性がある。

しかし自転車通勤には、いくつかのリスクや留意すべき点がある。会社としては、しっかりとした対策を取っておきたい。
 主なリスクや留意点としては次のようなものが考えられる。

(1)通勤中の自転車事故

① 自損事故、被害者となる場合

この場合の怪我は、通勤途上であれば、通勤災害として労災対象となり得る。しかし、自転車という乗り物の特性=自由さから、寄り道をするケースも多い。
また、一般的な最短距離の経路でなく、道路の走りやすさや好み(自動車の少ない道路や、道路の勾配、景色の美しさ等)により経路を選んでいる場合も多い。それらの場合には、労災の通勤災害となる要件である「住居と就業の場所との間を合理的な経路」として認められず、労災適用されないケースも少なくない。

② 加害者となる場合

自動車やバイクと異なり、自賠責や任意保険等保険に加入していないケースが多い。よって、従業員が相手方への損害を賠償できない場合、「使用者責任」が問われる可能性がある。
加害者に賠償命令が出た最近の事例では、5000万円~1億円近いものが相次いでおり、賠償金の高額化が進んでいる。
それらに伴い平成25年1月には兵庫県で、今年7月から大阪府で、自転車保険の加入義務化の条例の運用が開始された。今後、これらの動きは全国に広がる可能性があるだろう。

(2)駐輪場の確保

当然のことながら放置自転車など違法な駐輪は認められない。オフィス街などでは、駐輪場のないテナントビルもあり、駐輪場所が確保出来ないケースも多い。自転車通勤を認める場合、駐輪場を会社として確保するか、あるいは、従業員自身に確保をしてもらうか、といった点も留意すべき点である。

会社の実務的対応策

自転車通勤に対しては、社内規定を整備し、届出制や許可制にしておく方が望ましい。
社内規定上の事故対策としては、次のような点が考えられる。

①従業員には、法令や条例を遵守して、安全な自転車運転を常に心がけてもらうこと。
②危険な自転車(両輪にブレーキの無い自転車など)の使用は認めないこと。
③自転車の整備を常に行ってもらい、自転車の故障や不良時にはきちんと修理をしてから使用してもらうこと。
④雨天時の傘差し走行や、携帯電話等を使用しながらの走行は厳しく禁止すること。
⑤あまりにも長い距離の自転車通勤は認めないこと。
⑥自転車通勤上の怪我であっても、経路等によれば、通勤災害として労災の補償対象とならないこともあることを認識してもらうこと。
  ⑦個人賠償保険など、任意保険に加入しておいてもらうこと。

 
 特に⑦については、今後必須とするべきでると考える。自動車保険や火災保険においては、個人賠償保険の特約を比較的低額で付加することが可能な商品も増えている。また自動車保険の特約の場合は、事故の相手方との事故対応について、自動車事故と同様に保険会社が代理してくれるケースもある。
 自転車通勤中でもカバーされるのか等も含めて、会社としては任意保険を選ぶ基準を示してあげると良いであろう。

 駐輪場の確保については、その費用は従業員負担とするのか、会社負担とするのか。また、放置自転車などにより. 撤去保管手数料が必要な場合は、従業員負担とすること等も、はっきりさせておく必要もある。
 また、自転車通勤を災害時の通勤手段として予め想定し、整備しておくことも有効であろう。

 自転車通勤は、そのリスクに目を向けないでおくと、大変な痛手ともなりかねない。しかし、きちんとしたリスク対策をとったうえで、「自転車ツーキニスト」を制度化すれば、従業員にとっても、企業にとっても、魅力的な面も多々あるだろう。


オフィス・ライフワークコンサルティング
社会保険労務士・CDA 飯塚篤司

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