確定拠出年金改正法が成立した。これにより、これまで導入率の低かった中小企業への導入の促進が期待される。新たに設けられる「簡易型確定拠出年金制度」や、「個人型確定拠出年金への小規模事業主掛金納付制度」を活かしながら、中小企業のメリットと注意点について、考えてみる。
確定拠出年金制度の法改正に見る今後の展望と留意点

確定拠出年金改正法が成立と新たな可能性

2016年5月24日に確定拠出年金法が成立した。
今回の主な改正点は下記の通りである。


【1】中小企業が確定拠出年金を導入しやすくなる。

①従業員数100人以下の中小企業を対象に、設立手続き等を大幅に緩和した
「簡易型確定拠出年金制度」を創設
②企業年金の無い従業員数100人以下の中小企業向けに
「個人型確定拠出年金への小規模事業主掛金納付制度」を創設

【2】「個人型」確定拠出年金加入対象者の拡大

 これまで「個人型」確定拠出年金加入対象外だった国民年金第3号被保険者や他の企業年金加入者、公務員が加入可能に。 

【3】拠出金運用の改善

 確定拠出年金加入者が運用商品を選択しやすいように、継続投資教育の努力義務化や
運用商品数の抑制など。


確定拠出年金は企業が企業年金として導入できる「企業型」と確定拠出年金を導入していない企業の従業員や自営業者等が加入できる「個人型」とがある。
「企業型」では掛け金を全額会社が負担するが、損金扱いにできる。また、「個人型」では掛け金が所得控除の対象となる。

企業にとっても従業員にとっても様々なメリットのある制度であるが、中小業での導入が進んでいない。今回の改正は、中小企業への導入を促進させることも狙いの一つである。

また、「企業型」について、従業員数1000人以上の企業では約40%が導入しているのに対し、中小企業では約20%程度、特に従業員数100人未満の企業では約1%未満と、極端に低くなっている。
中小企業での導入が進まない理由としては、①制度導入が煩雑、②金融機関へ支払う管理コスト、従業員へ投資教育コスト等の運用コストが高いこと、③金融機関が中小企業への導入にハードルを設けていること、などが挙げられる。

今回の改正による「簡易型確定拠出年金制度」により、①制度導入の簡素化、②運用商品の抑制や複数企業による共同投資教育が可能になるなど運用コストの引き下げ、が実現し、中小企業でも加入・運営しやすくなる。解散が相次ぐ厚生年金基金の受け皿制度として、大きく期待できる。
   
企業で加入する「簡易型確定拠出年金制度」を導入しない場合でも、「個人型確定拠出年金への小規模事業主掛金納付制度」を導入する選択肢も増える。
この制度は、「個人型」確定拠出年金制度に加入する従業員に対して、従業員個人の拠出金に加えて、会社が拠出金を加算できるものである。会社が加算する拠出金は、会社の損金に算入でき、また従業員の所得にはならないことになっている。
会社の追加拠出する拠出金以外の運用コストを最小限に抑えた上で、「企業型」確定拠出年金制度を導入するのと同じ効果を得られる可能性がある。

いずれにせよ中小企業にとっては、よりよい人材を集める材料にもなりうるだろう。
求人の際に「社会保険完備」という文句がうたわれるのと同じように、「確定拠出年金導入済み」「個人型確定拠出年金への小規模事業主掛け金納付制度あり」といったうたい文句が優秀な人材を集めるための売りになるかもしれない。

確定拠出年金制度を十分に活かすために~移換のデメリットを例に~

確定拠出年金の特徴の一つに「ポータビリティ」(年金資産の持ち運び)がある。 転職の際に前職の確定拠出が年金資産を転職先にも移管できることが、本来の大きなメリットの一つである。ただ、現状では先に挙げた企業の導入率を見ると、そのポータビリティが十分に機能していない。
  
さらに、「移換のデメリット」を受けている人が非常に多い。確定拠出年金のある企業から無い企業に転職した場合、あるいは自営業を始めた場合などは、「個人型」(あるいは「運用指図者」)への移換手続きを、退職後6ヶ月以内に行わなければならない。しかし、国民年金基金連合会のデータによると、実際にはこの移換手続きを行っている人は、半数に満たないようだ。

退職後6ヶ月を経過しても移換手続きを行わなければ、「自動移換」という処理をされる。「自動移換」の期間については、資産運用がされないだけでなく、毎月管理手数料が差し引かれ続けてしまう。結果、せっかくの年金資産がゼロになってしまう人も少なくないようだ。

今回の改正では、中小企業への導入の促進と「個人型」への加入拡充が行われた。これにより、「移換のデメリット」を被る人が減ることが期待される。しかし逆に、加入者が増えることにより、確定拠出金制度についての諸手続きについての知識が無いと、よりいっそう「移換のデメリット」を被る人が増える可能性もある。
社会保険等と同じように、確定拠出年金制度の制度、必要な手続き等について、企業の人事労務担当者は最低限の知識を得ておく必要はあるだろう。

新たな確定拠出年金制度の施行は、交付から2年以内となっている。(一部は平成29年1月より施行)
導入をしていない企業、特に中小企業においては、今からでも情報収集をし、仮に導入する場合の効果等についてシミュレーションしておくのも良いかも知れない。 


オフィス・ライフワークコンサルティング
社会保険労務士・CDA 飯塚篤司

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