先輩社員「お前、出世したいか?」
新入社員「はい。したいです。」
先輩社員「そうか。だったら気を付けることは2つだけだ。金と女に気を付けろ。」

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上記の新入社員とは、かつての私である。約20年前、当時の先輩社員からこのように教えられた(?)ことを今でもよく覚えている。
 ところで昨今、スポーツ選手や芸能人、政治家といった有名人の賭博や不倫のニュースが後を絶たないようである。例えば、某バンドのことは知らなくても「ゲス」という言葉はすっかり全国に周知された感がある。しかし、これらの事件は決して対岸の火事ではない。お金や恋愛に関する問題は、どの職場でも起こり得る問題だからである。そう、あなたの職場でも勃発するかもしれない。もしそのような事態となったときの対応について、労務管理上の基本的対応を考えてみたい。
お金と不倫と労務管理の話

金銭問題と労務管理上の対応

①使い込み
代表的な事例として「使い込み」が挙げられる。会社のお金を私的に使うというケースである。重大な企業秩序違反行為であり、事業の継続を揺るがしかねない悪質な行為である。会社は厳罰で臨むことが基本となろう。金額の多寡、回数、期間、職務上の地位等様々な要素を勘案して判断をすることになるが、一般的にこのケースは懲戒解雇や普通解雇事由に該当する可能性が高いと言える。

②不正請求
電車通勤を申請して定期代を受け取りながら自転車通勤、残業自己申告制の職場で残業時間を水増し請求……等等、不正に金品を請求するケースも起こり得るケースである。これも使い込み同様、重大な企業秩序違反行為であり、懲戒事由となる。場合によっては解雇もあり得よう。

③職場に借金の取り立て
会社にサラ金などから取り立ての電話等がかかることもある。しかし、これは法律で禁止されている取り立て行為であり(貸金業法21条1項3号)、会社は相手の言いなりになることなく毅然とした対応をすべきである。問題となるのは当該従業員に対する対応であるが、個人的な借金はプライベートな問題であり、原則としてプライベートな問題に対しては会社には懲戒権はないと解されている。実に頭の痛い問題であるが、本人と解決に向けた話し合いを根気よく続けていくしか方法はなさそうである。

不倫問題と労務管理上の対応

『恋は中位ということを知らない。破滅させるか、救うか、どちらかだ。』(ユゴー「レ・ミゼラブル」より)

 かの文豪がこう言っているが、職場においては大抵の場合破滅をもたらしがちかもしれない。それが不倫の恋とくれば尚更であろう。実際に私も、昔勤務していた職場で不倫中の某従業員の妻が押しかけてきて……という光景を目の当たりにして恐れおののいたことがある。

 このように職場に悪影響を及ぼすことがある不倫問題であるが、これも上記③と同様にプライベートな問題であり、原則として会社は懲戒等の処分をすることは難しいと考えられる。不倫が道徳的にもNGであることは疑いの余地がないが、労務管理の問題とは全く別次元の問題であると割り切ることも必要かもしれない。会社の対応としては、仕事を超えた部分での指導等が中心となりそうだ。

 会社という場所は、お金と人が集まる場所である。だとすれば、以上のようなリスクは常に抱えていると言える。そして、そのリスクに対して会社として懲戒等の対抗手段が通じないケースもあるということは既に述べた通りである。身も蓋もないが、上手い解決策や根絶策などはないと考えるべきだろう。隠れたるより見るるはなし、壁に耳あり障子に目あり、隠し事というものはバレるものである。
一人一人が社会人としての自覚をしっかりと持つとともに、会社はそれを促す教育訓練を行うことで予防と再発防止に皆が一丸となって取り組んでいきたいものである。

出岡社会保険労務士事務所
社会保険労務士 出岡 健太郎

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