多くの企業で研修などを実施している中で、企業で働く人に対して、仕事で悩んだ時には早めのカウンセリングを勧めると、時折言われる言葉がある。それは、「仕事の量は変わらないのに、話をしても問題が解決するわけがない」というものである。

そのように言って、忙しいさなかにカウンセリングを受けることを躊躇するビジネスパーソンは多い。確かにカウンセリングをしたとしても仕事の量は変わるものではない。ではなぜ仕事で悩んだ時にカウンセリングが有用であるといえるのであろうか?カウンセリングの専門家である、臨床心理士・産業カウンセラーとして解説していきたい。
どうして仕事で悩んだ時にカウンセリングが有効なのか? 

仕事で悩んだときこそ有用なのが、カウンセリング!

仕事で悩んだ時にカウンセリングが有用であるのは、カウンセリングを通じて認知を変容することができるからである。認知とは、心理学辞典(有斐閣)より一部引用すると「「知ること」という意味をもち,哲学的用語としては「認識」と訳されるものである。一般的な言葉に置き換えると、「考え方」や「捉え方」と言えばわかりやすいのかもしれない。

例えば、宝くじで100万円当たったとする。多くの人が「ラッキー」と考え(これを認知という)、その後気分はウキウキとするであろう。しかしながら、うつ病などで認知が少し悲観的になっている人の場合は、宝くじで100万円が当たったとして「何か悪いことが起きる前兆に違いない」と気分が落ち込むのである。この例で大切なポイントは、宝くじで100万円が当たったという客観的な事実は同じであるということである。つまり事実がどうであれそれをとらえる認知によって気分は変わってくるということである。このことがとても大切なポイントである。

つまり、多くの人は、仕事が多くて大変だと考えている(認知している)。しかしながら、実は「仕事が大変」というのは「仕事が多い」と捉えている(認知している)のであって、その捉え方により気分が落ち込んでいるというケースもあるのである。もちろんすべてのケースが当てはまるわけではないが、カウンセリングを実際に実施する立場からいうと、仕事への捉え方ひとつでかなり変わってくるということをお伝えしたい。

認知を変える⇒ストレスも減少する

 認知を変えることで、職場でのストレスが減った例としてもう一つの例を挙げてみたいと思う。それは、朝職場で上司に挨拶をしたら無視をされたというケースである。この場合も客観的な事実は先の宝くじの例と同じである。では、「嫌われているのかも」と考えたならば気分はどうであろうか?きっと落ち込んだり、以後上司に声をかけるのをためらったりするのではないだろうか?しかしながら、一方で「聞こえなかったのかな」と考えれば、特に気分は落ち込まず、また今度話しかけようと考えるのではないだろうか?

 このように、仕事の客観的な量は変わらないとしても、認知を変えることでストレス反応を低減することができる。これこそが、仕事で悩んだ時にカウンセリングを勧める理由である。つまり、「仕事」に対して、ビジネスパーソンがどのように捉えているか、その捉え方の癖のようなものはカウンセリングを通じて変容させることができる。その結果、ストレスが少ない状態で仕事を続けることができるようになるのである。

今までカウンセリングへ行くことを躊躇していた、忙しいビジネスパーソンの方は、本文を読んでぜひ一度カウンセリングに行くことをお勧めする。今や多くの企業で社外相談窓口を設置し、そこでは、費用を会社負担でカウンセリングを受けることができる制度を整えている。一度自社にそのような社外相談窓口があるかどうかも一度チェックしてみるのも良いかもしれない。

Office CPSR臨床心理士・社会保険労務士事務所 代表 
一般社団法人ウエルフルジャパン 理事
産業能率大学兼任講師 植田 健太

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