平成27年4月、労働基準法の改正案が国会に提出された。今回の改正は、「長時間労働を抑制」、「創造的な能力を発揮しながら効率的に働くことができる環境を整備」することを目的としている。
改正のポイントは以下の通りである。

1.中小企業における月60時間超の時間外労働への割増賃金率の適用猶予廃止
2.年次有給休暇の取得促進
3.フレックスタイム制の見直し
4.企画業務型裁量労働制の見直し
5.特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設

この中でも、中小企業にとって特に影響を与えると予想される
1.「割増賃金率の適用猶予廃止」と2.「年次有給休暇の取得促進」
について見ていくことにする。
労働基準法改正案、国会へ~中小企業に与える影響は……

中小企業も割増率を2割5分から5割へ

時間外労働に対する賃金は、通常支払われる賃金の2割5分の割増しが求められる。この割増率は、一律ではなく条件によって異なってくる。時間外労働が深夜に及んだ場合には深夜分の割増率(2割5分)を加えた5割の割増しが必要だ。

また、平成22年の労働基準法改正により1箇月60時間を超える時間外労働に対しては、5割の割増率で計算した割増賃金の支払いが必要となっている。この60時間を超える時間外労働に対する割増率については、労働基準法138条により中小企業は免除となっていた。

今回の改正によりこの免除規定が削除され、中小企業も60時間超の時間外労働に対する割増率が増すことになる。
仮に65時間の時間外労働を行った社員がいる場合(深夜等は含まないものとする。)、今までは65時間の時間外労働対し2割5分の割増しでよかった。しかし今後は、60時間分時間外労働には2割5分の割増しが、60時間を超える5時間分の時間外労働には5割の割増しが必要となる。施行は平成31年4月1日の予定となっており、引き上げまでにはなお若干の猶予がある。

とはいえ、4年後には中小企業にとって大きな負担となってくることは想像に難くない。また、残業代未払いに対する労働基準監督署の監視の強化も考えられる。労働時間の削減は一朝一夕には進まないだろう。4年後を見据え今から対策を講じる必要がある。

年次有給休暇消化の義務づけ

提出された改正案では、企業に対し労働者に年間5日の年次有給休暇(以下、有給という。)を取得させることを義務づけている。対象となる労働者は、正社員だけではない。年10日以上の有給を付与される労働者が対象だ。正社員より労働時間が短く、有給が比例付与となっている労働者(所定労働時間が週30時間未満、かつ、週の所定労働日数が4日以下。)であっても、付与日数が10日以上の労働者は対象となる。

この場合、勤続年数等にもよるが1週間の所定労働日数が3日以上の労働者には取得させる義務が発生することになる。ただし、労働者が5日以上の有休を取得している場合には、企業の義務は発生しない。例えば労働者が自分から1日の有休を取得した場合、年5日に満たない部分(この場合4日)を取得させる義務を企業側が負うことになる。

こちらの施行は平成28年4月1日の予定だ。現時点で、労働者が年5日以上の有給を取得できている企業においては、影響はほぼない。ただ、有給の取得率の低い企業には影響を与える。1人当たりの業務量が多く忙しい等の事情があるからこそ取得率は低いのであろう。では、労働者にどのように有給を取得させていくか。事業主の努力は当然に必要である。

ただ、それのみでは難しいものもあるだろう。やはり労働者の意識改善も必要だと考える。1日の労働時間を8時間とした場合、年5日の有給は労働時間40時間分と計算される。月の労働日数を20日とすると、年間で240日となる。そのうち5日が有給となるので、実際には235日が年間の労働日数だ。前掲の40時間を235日で割れば1日あたり10分ちょっととの計算になる。単純に言ってしまえば1日10分業務の効率化を図れれば、年間5日の有給分を補うことができる計算になる。

 当然、仕事は会社や労働者本人の努力だけでは解決できない部分も多い。上記の計算も机上の空論といわれてしまえばそれまでだ。ただ、少し視点を変えてみることにより、意外な解決策が出てくるかもしれない。

 今回は、労働基準法改正案のうち、中小企業に影響を与えると考えられる2つの改正点についてみてきた。今回の改正案には労使双方に大きな影響を与える点がいくつもある。現状では国会の審議がどのように進むか分からない状況だ。引き続き状況を注視していく必要があるだろう。

社会保険労務士たきもと事務所 代表・社会保険労務士 瀧本 旭

この記事にリアクションをお願いします!