上司「来週、年次有給休暇(以下年休)を取ってくれないか。」
 部下「無理です。仕事が溜まっているので。」
 上司「そうか……それじゃあ年休を取得して、その上で出社するといい。年休をどう利用しようと君の自由だから。」
 部下「なるほど!そうします!」
(あるネット上の書き込みを一部修正して掲載)
休ませ上手は経営上手!?

 現在、厚生労働省(以下厚労省)では年休消化を企業の義務にしようという検討を行っている。新聞等でも大きく報道されたのでご存知の方も多いだろう。さぞ労働者側は歓迎ムード一色なのではないかと思ったら、意外と冷めた見方が多いようだ。上記のネット上の書き込みはその一例である。
 これは何故だろうか。ふと私自身の会社員時代を思い返してみると、あることに思い当たる。私は社労士になる前に約11年間の会社員時代があったが、その間1日も年休を取得したことはなかった。その理由は人員的な問題や作業的な問題等の現場の現実問題として“取れる訳がなかった”からである。今回の労働者側の感想としては、年休消化がいくら義務化されたところでそうした現実が変わる訳ではない、という諦めの気持ちがあるのだろう。
 また、厚労省が実施した意識調査の結果もそれを裏付けている。この調査によると、約3分の2の労働者が年休の取得にためらいを感じていて、さらにその理由のダントツ1位が「みんなに迷惑がかかると感じるから(73.3%)となっている。(厚労省リーフレット「10月は年次有給休暇取得促進期間です」より)自分のことよりも周囲のことを気にかけているのだ。

 こうしてみると、年休を取らない人について、ある人物像が浮かび上がってくる。周囲に迷惑がかかることをよしとしない人、自分のことよりも他者を優先する人……つまり、年休を取れない人は“いい人”なのである。“いい人”は休みが取れなくてもじっと我慢する。じっと黙って頑張って、そしてあるときついに限界に達して爆発してしまうのだ。企業はこうした“いい人”を守らなければならない。自分のことを二の次に考えられるような人は誠に得難い人材の筈だ。大切な自社の人材を守り、働く人も、企業も共に成長していく為に、来春に予定されている年休消化義務化を待つことなく、企業側は積極的に年休取得促進に動き出すべきではないだろうか。

 実は現行法においても、会社側が主導して労働者に対して年休取得を取得してもらうことができる制度は存在する。「計画年休制度(労働基準法第39条6項)」である。一定の条件を満たせば(その条件についてはここでは割愛する)、年休の日数のうち5日間を超える部分について、計画的に、事前に年休取得日を決めることができる。自ら年休取得を申し出ることができない“いい人”に年休をとってもらうには有効な方法である。
 さらにこの計画年休制度を活用して、社員のモチベーションアップを図っている事例もある。「リフレッシュ休暇」「アニバーサリー休暇」「自己啓発休暇」「家族サービス休暇」「ボランティア休暇」……等々、自社の状況に合わせたユニークな休暇制度を計画年休制度とリンクさせて実施するという取組みである。これらのユニーク休暇のいいところは、年休を取る大義名分が立ち、会社の方針の下に堂々と年休を取れるという点である。また遊び心があり、職場を明るくする効果も期待できる。もちろんこの計画年休制度にはデメリットも考えられるが(一度決めたら原則として変更不可であり融通性に乏しいなど)、十分に検討する価値があるのではないだろうか。

 「寝る子は育つ」とは科学的にも正しいのだそうだ。だとすれば、「休める会社は発展する」と言うこともできるかもしれない。ここはひとつ、知恵を絞って積極的に年休の取得促進に企業方針として取り組んでみられてはいかがであろうか。


出岡社会保険労務士事務所  出岡 健太郎

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