就活時期繰り下げだけが、2016年度採用の論点だろうか。違う。採用の基本だが、学生の変化。これを捉えないとズレた採用活動になってしまうことだろう。大学生と接していて感じることを徒然なるままに書くことにしよう。
就活時期繰り下げだけが2016年度採用ではない。学生の顔を今一度直視せよ

 2016年度採用がやってきた。就活時期は、繰り下げになる。採用広報活動の「解禁」は2015年の3月なのだが、予想した通り企業、大学、学生は動き始めている。
 このサイトでも繰り返し他の記事やデータで触れられており、読者である勉強熱心な採用担当者、大学関係者にとっては釈迦に説法だとは思うが、今一度、いま起きていることを簡単にまとめておこう。インターンシップを始めとする早期から接触し、囲い込みや認知度アップを狙う施策に企業は力を入れている。大学でも、インターンシップに参加するようにという指導が盛り上がりつつある。インターンシップの時期も多様化し、3月までに何度かの波がありそうだ。業界研究講座やOB・OGとの交流会と称し、企業との接点を持つ場も大学が推進する動きも盛り上がりそうだ。

 思えば2015年度採用は、インターンシップにしろ、早期の内定出しにしろ、就活時期繰り下げに対する大いなる実験の場だったと解釈している。8月1日の選考解禁を遵守する企業と、そうでない企業に分かれそうなのは明らかな流れだが、ではインターンシップで早期接触する、フライングで内定を出すなどしても、自社は学生を囲い込めるのか、その実験を2015年度採用で実施していたと私は見ている。
 やや端折った解説になったが、本題はここからだ。私は気づいてしまった。それは、2016年度採用の論点は、就活時期の繰り下げに過度に寄りすぎていなかったかということだ。新卒採用の基本だが、今年の大学生はどんな若者たちなのか、丁寧に彼らの顔を見ること。この点を無視してはいけない。
 これまでの就活生とはだいぶ行動パターンが違う。大学生活も変化している。このことを無視して、打ち手を考えると大きくずれてしまうだろう。インターンシップに来るような熱心な学生だけを前提にしても、よくない。まずは、彼らに何が起こっているのかを直視しよう。

 最近、複数のメディア関係者からよく相談が入る。それは「就活に関する記事は、いつから掲載すればいいのか」というものである。彼らも相当、学生を取材しているのだが、意識高い系の学生、インターンシップに前のめりな学生以外の普通の学生は、動いていないのだ。就活関連の記事は、新聞・雑誌の主な読者でもある親たちが読むので、いつ掲載してもニーズはあるのだが。
 学生たちと話していると、「共通の話題が消えた」と彼らは言う。どういう意味か。それは、有名大学を中心に就活に売り手市場感が漂っていることと、就活時期が繰り下げになっているからである。学生生活が分化する中、就活だけは共通の話題だった。しかし、それ以外の共通の話題などないのではないかという意見である。一部のインターンシップをはしごする学生は別として、普通の学生にとって就活の存在感は良くも悪くも薄くなった。2013年度にも就活時期の見直しは行われ、時期が繰り下げになったが、その際にも学生の業界・企業研究不足が指摘された。今回は、実は繰り下げになりつつも、2015年度までよりも採用広報期間は1ヶ月増える。とはいえ、学生の意識を考えるといかにわかりやすく学生に発信していくかという観点が必要だろう。

 情報の発信の仕方も気をつけなくてはならない。やはり、メディア関係者と話していて話題になるのだが、加速度的に情報との接点がスマートフォンに移行している。自分専用のPCを持っていない学生も目立ってきた。ネットニュースの記事を書くときも最近は、スマホで読みやすいか、読みたくなるかということを意識するようにと編集部に促されるようになりつつある。貴社の求人広告を始めとする情報発信は、スマホ時代を意識しているか。このことを今一度、認識しておきたい。
 採用活動は、ますます学生の時間の奪い合いになるだろう。というのも、出席をとる科目が増えたし、長距離通学の学生も増加傾向のため、またアルバイトの切実度が上がっているため、学生は忙しいのだ。また、いわゆる「学生時代に力を入れたこと」だが、普通の学生は、そんなことに使う時間がない。単に見栄えの良い体験を評価するのではなく、その学生を味わい尽くす選考が必要だろう。
 今年の学生はどんな学生か。私は採用担当者の頃は、かならずその年の3年生の年表を確認していた。どんな時代を生きてきたのか、自分の会社の歴史とあわせると何が言えるのか。彼らの実態を考えると、自社のメッセージがいかにズレているかに気づくことだろう。
 その前に、まずは大学への訪問に合わせて、学生食堂に1時間滞在したり、キャンパスをぶらぶら歩いてみよう。そのリアリティなしで2016年度採用に立ち向かっても、滑るだけである。


HR総研 客員研究員 常見陽平
(著述家、実践女子大学・武蔵野美術大学非常勤講師)

この記事にリアクションをお願いします!