メンタルヘルス不調者の増加やそれに伴う精神障害の労災請求が増加している。精神障害の労災請求件数でみると、2011年度は1,272件、2012年度は1,257件といずれも過去最高の水準であったにもかかわらず、2013年度は1,409件とさらに大幅に増加している。それに伴い、支給決定件数も年々増加している状況だ。
メンタルヘルス対策に終わりはない!?

 これらの状況に対応するために、メンタルヘルス対策の充実・強化等を目的として、従業員数50人以上の全ての事業場にストレスチェックの実施を義務付ける「労働安全衛生法の一部を改正する法案(通称:ストレスチェック義務化法案)」が2014年6月19日に国会で可決・成立した。

 ストレスチェックの義務化により、従業員50名以上の企業では年1回従業員に対してストレスチェックを行わなければならない。そして、企業はストレスチェックの結果を従業員に通知したうえで、従業員が希望した場合には産業医等の医師による面接指導を実施する。

 ストレスチェックが義務化された結果、従業員にとっては気がかりになることがあるだろう。
 例えば、以下である。
(1)ストレスチェックの結果を会社が見て、ストレス状態の良くない人に不利益な対応をするのではないか?
(2)リストラ対象者の選別のための新たなツールとして悪用されないのか?

 実際にこんなケースもあった。会社としては従業員のメンタルヘルス対策のため、ストレスチェック義務化以前から従業員の健康状態を把握しようと実行したことが、従業員にとってはそれこそがストレスになっていた。結局、短期間で終わってしまったという笑えないケースである。

 事前に従業員に対して制度の趣旨等をきちんと説明していたか等、会社側の対応に問題があったことは否めないが、従業員のためを思って実行したこともまた事実である。
 メンタルヘルスに関しては非常に難しいということを、実感せざるをえない。

 そのようなケースを想定してかどうかわからないが、今回の改正法において「当該検査(ストレスチェック)を受けた従業員の同意を得ないで、当該従業員の結果を会社に提供してはいけない」と明確に規定されている。
 実際のストレスチェックは医師や保健師などが行うことになるが、守秘義務が課せられるのは当然として、会社と情報共有がなされることが前提である健康診断とは大きく異なる。
 さらには、「会社は、従業員が当該申し出(医師面談)をしたことを理由として、当該従業員に対して不利益な取り扱いをしてはならない」とされている。

 私ども社会保険労務士の立場では、従業員が高いストレス状態になってしまうのは、従業員個人の資質よりも職場環境に何らかの問題があるために生じているとされてしまうことのほうが心配である。改正法では、企業は医師の意見も聞いたうえで業務内容の変更や勤務時間の低減など「適切な就業上な措置」を講じなければならないと定められた。この場合も同意を得ないで医師が会社側に結果を提供することは禁じられている。

 改正法では、働く人たちの高すぎるストレス状態を少しでも緩和し健康で生き生きと働けるためにストレスチェックを義務化しているが、個人情報の保護や不利益取り扱いについて、より一層の会社側の十分な配慮・管理が必要だ。


社会保険労務士たきもと事務所 代表・社会保険労務士 瀧本 旭

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