燕の昭王「人材を集めたい。どうすれば良いだろうか。」
郭隗「ではまず私を優遇してください。」
昭王「それでどうして人材が集まるのか。」
郭隗「この私ですらあれほど優遇されるのか、という噂が広まれば、私よりも優れた者がどんどん集まるでしょう。
昭王「なるほど、そうしよう!」

こうして燕の国には優秀な人材が多く集まるようになり、国力は高まっていったのであった……。
隗より始めよ~人手不足時代の基本的戦略~

 以上は、有名な「隗より始めよ」の大まかな話の内容である。物事を成すには、まず手近な所から始めるのが良いという故事で、紀元前300年頃の話である。

 時は現代、人手不足の世の中である。「賢者は歴史に学ぶ」の言葉もあるが、この「隗より始めよ」には学ぶべき所があるかもしれない。現に多くの企業でそうした取り組みが既に始まっている。以下、最近の新聞報道等から知ることができる「隗より始めよ」の事例を集めてみた。字数の関係上、情報がかなり断片的で不十分な内容であるがご容赦願いたい。

(1) 契約社員を60歳まで雇用保証(三菱東京UFJ)
 2015年4月から、60歳まで働ける新たな形態を設けて、一定の条件を満たす人を対象に希望者を募る。同時に休職・休暇制度も充実させる予定。約1万1千人いる契約社員の待遇改善を図る。

(2) 地域正社員制度の導入(ファーストリテイリング)
 同社では今年の6月から、異動が無く短時間勤務など柔軟な働き方ができる「地域正社員」制度を導入している。6,7月の2か月で既に500人以上の地域正社員が誕生していて、今後さらに採用が本格化するという。働きやすい環境を整備して、良い人材を長期にわたって確保する取り組みが始まっている。

(3) 人材配置の適正化(イオン)
 同社従業員約42万人について、人材データベースを作り、最適な人材配置に活用していく。パートタイマーの正社員登用などにも活用される見込み。キャリアアップの機会が増えることで、従業員の士気向上も期待される。

(4) パート全員に正社員の人事制度を適用(イケア・ジャパン)
 パートの雇用契約を無期限化し、同一業務なら正社員と同一の賃金を支払う。フルタイム勤務ができない人のために、週12時間から勤務可能にしている。納得度が高く、かつ安心して働ける環境が整備され、従業員満足度が高まりそうだ。

(5) パートの資格の定義の見直し(イズミ)
 時給の高い社内の上級資格の定義を明確にして、要件を満たす人を積極的に登用し、人材の流出防止を狙う。

(6) 従業員用食堂のリニューアル(天満屋)
 従業員食堂のソファーの席を増やしたり、サラダ等の小鉢メニューを充実させたりなど、従業員サービスの面からのアプローチも行っている。

(7) 業務の縮小(ワタミ)
 店舗数を減らして、従業員を周辺店舗に振り分け、1店舗当たりの社員比率を引き上げる。これにより職場環境の改善を進めている。

(8) オペレーションの見直し(外食各社)
 調理時間を短縮できる業務用商品の活用など、作業環境の改善を進めている。同時に限られた人員でも営業可能な仕組みを模索している。

(9) 賃金、時給のUP(各社)
 働く上で賃金の高さは重要な関心事である。人手不足対策として、多くの企業が賃金のUPなどを実施している。その成果は果たして……!?

 以上、多くの会社で「隗より始めよ」に取り組んでいることが分かる。採用の観点からは、一見遠回りのようであるが、既存の従業員満足度が高まれば、人が人を呼び、良い人材が集まってくることも期待できる。ひょっとすると、これが人材確保の一番の近道かもしれない。「急がば回れ」という訳である。「人手不足」→「採用の強化」と考えがちであるが、その前に自社の職場の現状をよく見つめ直すことが、何よりも最初に取るべき行動かもしれない。


出岡社会保険労務士事務所  出岡 健太郎

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