4月7日の日本経済新聞の社説に、『「新卒一括」採用は本当に効率的か』という見出しの記事が出た。この論理展開が極めてずさんで、呆れてしまう。
 何年も前からこのような決めつけ方を私は批判し、いまではかなり多くの人が新卒一括採用の効用を評価しているし、日本経済新聞の現場の記者にも私は話をし、理解を得てきたつもりだ。おそらく、社説を書いている人は、現場の記事を読まない、頭の固い老人なのではないか。
新卒一括採用批判に見る新聞社の社説のずさんさ

 いくつか指摘しよう。
 まず、根本的に定義が間違っている。「特定の時期に集中して学生を選考し、内定を出す」のが新卒一括採用方式としているが、全然違う。現に、外資系、ベンチャー企業など、日本の大手主要企業より早く選考を開始する企業数は全体の5割近くある。また、大手企業の採用活動の山が越えた後から採用活動を開始する中堅中小企業も多い。新卒採用の選考開始時期を決めているのは経団連の倫理憲章であり、これすなわち新卒一括採用だと決めつけているのは、知識不足極まりない。
 新卒一括採用とは、在学中の学生を企業が選考して採用することであり、その数が企業の人材採用の中心を占めていることを言う。ただし、ほとんどの企業は新卒採用と中途採用を併用しており、新卒でしか採用しないという企業は皆無と言える。つまり、結果として新卒で就職できる学生が多いということが新卒一括採用だということになり、新卒一括採用が崩れるということは、多くの学生が学生時代に就職できない事態のことを示すことになる。社説を書いている人は、そのような事態を望んでいるのか?

 一括採用方式で選考に漏れると就職の機会が狭まってしまう、というのも大間違い。だいたい、4年の4月~5月に大手企業が選考を終えた後でも、卒業までの期間に多くの学生が内定を得る機会がある。また、卒業してからでも、1,2年以内に正社員に就職している人が非常に多いことは、リクルートキャリアフェロー海老原嗣生氏が明快に証明している。
 また、既卒者採用に力を入れろというが、そんなことは企業はとっくにやっている。既卒者採用での競争も激しい。

 次に社説では、景気が良くなったことと、経団連が選考解禁の時期を後ろにずらしたことにより、2016新卒採用から学生の取り合いは激しさを増すだろうと予測しているのだが、その後に、グローバル競争の激化で企業の採用は学生の質を重視する傾向が強まり、「厳選採用」時代になって大量採用していないと続けている。全くつじつまが合わない。
 景気が良くなる→企業が採用数を増やす→選考時期が後ろ倒しに→企業が必要人数確保のため早めに確保しようとする→競争激化、という話のはずだが、「厳選採用」で大量採用はしない時代になった、だから新卒一括採用は非効率だと続けており、この社説を書いた人の論理構成力は完全に破たんしているとしか思えない。
 
 また、卒業論文、卒業研究で就職活動が遅れた人、卒業後に留学をした人を対象にした採用に積極的に取り組むべきだと書いているが、企業はとっくにそんなことはしている。さらに、人事任せでなく事業部門が直接採用せよ、学生への企業説明努力をもっとせよと色々言っているが、それが新卒一括採用批判と何の関係があるのか。

 キャリアのない学生をポテンシャルで在学中に採用することが、若者の就業率を高めることにどれだけ寄与しているかという視点が、この社説には全く欠けている。また、企業は一定の経済合理性の中で動いており、日本において優秀な若者を採用するには新卒時に確保する方式が良いと分かっているからこそ、この方式をとっている。もちろん、企業によっては、新卒採用時に優秀な学生を採用できないので、中途採用中心に行っているところも少なくなく、それは企業の採用戦略によるものだ。

 今の新卒採用が非常にまずい状況にあるのは、それが新卒一括採用からではなく、大手企業にあまりに偏った就職活動をする学生を生み出す、就職ナビを中心とした構造の問題である。このことはいつも言っていることなので、ここではこれ以上説明しないでおこう。

 最後に、論理が破たんしていて知識皆無のこうした社説を読んだ大人たちが、日本企業の新卒一括採用が日本をダメにしているなどという、大変な誤解をしてしまうことが非常に怖い。それにしても、新卒採用は私の専門なのでこの社説の新卒一括採用批判の記事がいかにずさんなものであるかわかるのだが、社説の他の記事も同じくらいひどいものなのだろうか。だとしたら、新聞社の社説は読まないか、反面教師的に斜めから読むべきものかもしれない。


HRプロ代表/HR総研所長 寺澤康介

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