HRサミット2018プレインタビューVOL.10

GDPの7割を占めるサービス業。その事業成長を促進する働き方改革とは〜現場で働く人の働き方を見違えるように変えるクラウドOJT「ClipLine」〜

ClipLine株式会社 代表取締役 高橋勇人氏
<インタビュアー>ProFuture株式会社 代表取締役社長 寺澤康介

わが国の成長力を押し上げるためには、GDPの約7割を占めるサービス業の成長が必要不可欠である。しかし深刻な人手不足や生産性改善策の停滞など、サービス業の成長を阻む課題は少なくない。現場の働き方改革を実現する手立てはどこにあるのか。そこで今回は、経営コンサルタント時代に回転寿司チェーン「あきんどスシロー」を業界No.1企業に成長させ、現在はClipLine株式会社のトップとして、多店舗展開するサービス業の経営改革を実現させている高橋勇人氏に、サービス業の現状や課題解決のためのヒントを伺った。

なぜ働き方改革が進まないのかサービス業を取り巻く問題とは

全産業に占めるサービス業の割合は右肩上がりで高まっています。しかし教育や人事制度の改革が進み、生産性が飛躍的に向上しつつある製造業などと比較すると、サービス業の生産性はまだまだ低いのが実態です。なぜサービス業の生産性は高まらないのか。まずはその点について高橋社長の見解をお聞かせください。

高橋氏

サービス業は、GDPの約7割を占め、国内の総従業員数も8割近くカバーするほど、社会的なインパクトは年々大きくなっています。サービス業と言ってもECビジネスなどさまざまな形態がありますが、その主体となっているのは、やはりコンビニや外食チェーンなど店舗を起点としたサービス業です。そしてこの店舗型のサービス業こそ、働き方改革やIT化がほとんど進んでおらず、生産性が著しく低いという課題を抱えています。

ではなぜ生産性が高まらないのか。それは製造業と比較するとわかりやすいでしょう。製造業の場合、製品が工場から出荷されるときは、必ず出荷前検査が行われ、規格を満たしていなければ、製造ラインに戻され、修正される、というフィードバックのサイクルが回ります。しかし店舗型のサービス業の場合、例えば料理一つとっても、お客様に提供する前に量や大きさ、形や温度をいちいち計ることはありません。しかも生産と消費がほぼ同時に行われるため、データの蓄積もできず、そのこと自体が生産性の向上を難しくしていると思います。

製造業の場合、モノを作る基準が非常に明確ですが、人が主体となっているサービス業の場合は、その点が曖昧で、日本人同士の阿吽の呼吸や暗黙知でやっている面が多分にありますよね。しかし非正規社員や外国人労働者などが増え、最近はそういったことも通用しなくなってきているように感じます。

高橋氏

サービス業において労働の担い手の大半が非正規社員であるという事実が、働き方改革の停滞をはじめ、さまざまな問題の原因になっていると思います。非正規社員は単純作業しか任されず、スキルアップする機会も提供されないため、すぐに仕事がつまらなくなり職場を転々としてしまいます。しかし、それでは賃金が上がらないのはもちろん、手に職もつきません。企業にとっても、離職率の上昇や人件費の増大など、経営にダイレクトに跳ね返ってくることになります。よってこうした非正規を含め、すべての従業員に平等に育成の機会を提供していくことが、サービス業全体の大きな課題となっているのです。

スポーツ選手の練習をヒントに動画ツールでスタッフの教育を支援

御社は、店舗を持つBtoC企業を対象に、動画学習ツールを活用してスタッフの教育支援を行っていますが、そもそも高橋社長はどのようなきっかけでこの領域を手掛けられるようになったのでしょうか?

高橋氏

弊社を設立する前は経営コンサルタントとして、回転寿司チェーン「あきんどスシロー」様をはじめ、多店舗展開をするさまざまな企業様の経営改革をご支援させていただきました。その中で毎回困ったのは、データに基づいて提案し、やるべきことが決定しても、それを現場に落とし込むのにとてつもない時間や労力がかかることです。例えば、あきんどスシロー様の場合、当時300店舗4万人の従業員がいたのですが、その4万人に対して同じように指示を伝えるのは本当に大変なのです。しかもその4万人のうち95%以上が非正規社員で、昨日入った高校生から、パートの主婦、シニア、外国人まで、さまざまな人たちが働いています。

そんな年齢もバックグラウンドもバラバラなスタッフたちが全員同じように均質にサービスを提供しなければなりません。そのうえ店舗の仕事は、接客、レジ打ち、料理の提供、清掃…など覚えなくてはいけないことが多岐に渡るため、いちいち頭で考えずに、体で覚えていく必要があります。

果たして大勢のスタッフを相手に、多様な業務を効率的かつ正確に教えるにはどうしたらいいのか。そこで行き着いた答えが、スポーツのように反復練習を取り入れることでした。スポーツ選手は繰り返し繰り返し練習して、体に覚え込ませますよね。しかもその際、自分のフォームを動画で録画して、細かくチェックする選手も多いです。これは店舗の仕事にも十分応用できます。つまり動画を活用することで、料理を一皿作るにしても、見本となる動画を見て正しい作り方を覚えたり、自分の動作を録画して繰り返しチェックしたり、あるいは正しい動作ができているのかどうかを遠隔で誰かに確認してもらい、さらにそれをフィードバックしてもらうことも可能となります。 現在弊社が提供している「ClipLine」は、こうした経緯のもと「いつでも、どこでも、ひとりでも学習できる」をコンセプトに誕生しました。

インタビューはまだまだ続きます。

  • 自分の動作を客観視しながら他者からフィードバックを得る
  • 使い道の広がる「ClipLine」外国人/海外展開を本格化
HRサミット2018での講演情報
G5 9/19(水)15:35 - 16:35 最新AI活用事例
C11 9/20(木)15:35 - 16:35 10万人のデータから見えた人材定着の仕組み

高橋 勇人氏
ClipLine株式会社 代表取締役

京都大学理学部、同大学院理学研究科卒業後、アクセンチュア株式会社、株式会社ジェネックスパートナーズにおいてコンサルタントとして多数の多店舗展開企業の経営改革を主導。回転寿司チェーン「あきんどスシロー」を始め、売上数百億?1千億円規模の企業の業績向上と組織変革を完遂。2013年に独立しClipLine株式会社を創業。同社の代表取締役として経営をリードしながら、コンサルティングノウハウを活かしてClipLineを開発。AIなど先端技術の応用可能性を検証する一方で、サービス業の価値の源泉である人材の育成こそが真の生産性向上につながるという思想を持つ。

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