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退職金・年金対応虎の巻!これだけ押さえておけば労務業務は大丈夫!

〜退職給付会計にもう悩まないために知るべきこと〜

株式会社IICパートナーズ 代表取締役社長 中村淳一郎氏

経理の仕事なのになぜ人事が関係するのか

人事の方には退職給付会計は経理の仕事ではないかという気持ちがあると思います。実際、経理の仕事だと思います。ただ、経理だけでは処理できません。なぜかというと、二つ理由があります。

一つは社内や監査法人に説明するために退職金・企業年金制度への深い理解が必要だからです。そして、もう一つは退職給付債務を計算するための人事データを迅速に作る必要があるからです。人事データにはどのようなものがあるかというと、生年月日、性別、入社年月日、基本給──等々です。この二つの理由から人事の方の協力が必要なのです。

退職給付会計には三者が関わってきます。監査法人、会社、計算機関です。監査法人は当然、監査を行います。計算機関は退職給付債務に関する計算を行います。

そして、会社のなかでは経理が会計処理・注記開示データの集計を、人事が退職給付債務計算用データの作成をすることになります。さきほど触れた生年月日、性別、入社年月日、基本給などのデータですね。それともう一つ、制度の内容について伝えるのも人事の方の役割ということになります。

退職給付会計に関する役割分担と業務フローについて説明したいと思います。

第1フェーズは基本方針の確認あるいは設定です。この時、大事なのは制度内容および計算基礎に関する方針の確認です。制度はどういうものなのか、変わっていないのか──、制度変更が発生した場合や子会社の原則法移行時には、これらをスピーディに監査法人に伝え、協議する必要がありますので、要注意です。誰かが伝えていると思って実は伝わっていないというケースがよくあります。

次の第2フェーズでは人事データと計算基礎に基づき退職給付債務の計算を実施します。人事の方が人事データの作成・提出、計算基礎の指示を行い、計算機関が計算を実施、その結果を人事の方、経理の方が連携をとって検証し、割引率の補正およびデータ期間の調整を行い退職給付債務が確定することになります。

最後の第3フェーズでは計算結果に基づいて会計処理をしたり、監査手続をすることになります。

これらの実務を進める上で、多いトラブルは4つあります。
【1】人事データの作成不備、【2】制度内容などの変更に関する連絡漏れ、【3】スケジュールの確認漏れ、そして、【4】そもそも何をしているか分からないというものです。
【4】は人事の方からよく聞きます。人事の方は人事データに作成など部分的に関わることが多いため、全体像が分かりません。会計の専門用語がピンとこないという声もよくいただきます。

しかし、人事の方が退職給付会計の全てを理解する必要はありません。今日は最低限押さえておいていただければ大丈夫というエッセンスを説明させていただきたいと思います。

まず、「退職給付とは何か?」です。これは労働の対価として退職以後に従業員へ支給される給付で、会計処理はDC型(確定拠出型)とDB型(確定給付型)の二つに大きく分かれます。DC型については給与と同じようなもので、掛金(保険料)をそのままその期の費用として計上すればいいので簡単です。難しいのはDB型です。退職一時金、厚生年金基金、確定給付企業年金などです。以下、これについて説明していきます。

「退職一時金+DB型年金」における会計上のゴールとなると数字は何かというと、それは退職給付引当金です。これは退職給付債務から年金資産を引き、さらに未認識項目を引くことで出します。未認識項目については後で説明します。

ゴールは押さえました。しかし、そこに至るまでに、いろいろな項目や専門用語が出てきます。それを整理したいと思います。その際、大事な軸が二つあります。それは退職給付債務と年金資産です。退職給付会計はこの二つが中心で、この二つに支配されているといっても過言ではありません。

年金資産は退職給付の支払いのために企業年金制度において積み立てられている資産です。公正な評価額、つまり時価によって評価します。

もう一つの退職給付債務は従業員などに対する退職給付の支払い義務を現在価値で評価したものです。数理計算──確率統計計算によって評価します。

特に退職給付債務が重要です。ただし、細かい計算方法まで理解する必要はありません。概念的なところを押さえていただければ十分かと思います。

退職給付債務、勤務費用、利息費用の内容と関係

退職給付債務に密接に関係するものに勤務費用と利息費用があります。退職給付会計の本や会計基準を読みますと長い定義が書いてありますが、覚えていただく必要はありません。勤務費用とは退職給付債務のうち1年分、利息費用とは時の経過により発生する退職給付債務の利息──これだけ覚えていただければ十分です。

これらの関係を説明すると──たとえば、佐藤さんは現在30歳、入社したのが20歳で過去勤務期間が10年間とします。これから30年間勤務して60歳で退職するというモデルを考えてみます。

60歳で退職する時の過去勤務期間分の退職給付見込額が180万円になったとします。この180万円はあくまで30年後の貨幣価値ですので、現時点の貨幣価値に換算し直す必要があります。国債の金利や社債の金利に基づいて設定する割引率がたとえば2.0パーセントとすると、100万円という数字が出てきます。この100万円が佐藤さんの退職給付債務ということになります。

では、退職給付債務、勤務費用、利息費用の三者の関係はどうかというと──。

利息費用は(当期末)退職給付債務×割引率となります。一方、勤務費用は退職給付債務のうち1年分です。そして、(翌期末)退職給付債務=(当期末)退職給付債務+(翌期分)勤務費用+(翌期分)利息費用ということになります。つまり、利息費用と勤務費用を累積していくと退職給付債務になる──という関係になります。

続いて、さきほど少し触れた未認識項目──隠れ債務について説明したいと思います。なぜ隠れ債務という微妙な響きのものが認められているのかと言うと、ちゃんとした理由があります。未認識項目には三つあります。一つ目は過去勤務費用です。退職金あるいは年金の支給水準を引き上げた場合、退職給付債務が増えます。この、退職給付水準の改定などに起因して発生した退職給付債務の増加(または減少)部分に当たる過去勤務費用、これが過去勤務費用ということになります。

この増えた部分については、その期に費用として計上すべきではないかという考え方もありますが、それはしなくていいということになっています。なぜかというと、給付水準を引き上げれば従業員の方の労働意欲が向上して、将来の売り上げも伸びることが予想されるからです。それなら今発生している費用を将来の収益に対応させるように徐々に計上していけばいいのではないか───というわけです。

二つ目の未認識項目は数理計算上の差異です。一言でいうと見積りと実績の差です。

期待運用収益率というものを過去の運用成績と将来の運用の想定利回りから設定します。実際には、それよりも良かったということなると、そこに差が生じます。退職率についても見積りベースと実際ベースとの間でも差が生じることがあります。これらが数理計算上の差異です。

数理計算上の差異にはもう一つ変則的なものがありまして、それは見積り自体の変更による差です。将来の退職率の変更、割引率の変更など見積り自体を変更すると、そこに差が生じます。これも数理計算上の差異ということになります。

これらを即時に認識すべきではないかという考え方もあるのですが、遅れて認識していいということになっています。なぜかというと、見積りを設定しても、それを上回る年もあれば下回る年もあります。長い期間で通算していけば、プラスマイナス相殺されるので、一喜一憂して即時に損益を認識すべきではないという考え方から、遅れて認識していいということになっているわけです。

さて、三つの未認識項目は会計基準変更時差異、すなわち退職給付会計導入による要負債計上額の変動額です。2000年に退職給付会計が導入され、基準か変わったことによる影響額を遅れて認識すればいいということになったために生じたものですが、すでに2015年3月末で償却が終わっていますので、割愛したいと思います。

レポートはまだ続きます。気になる内容の続きはダウンロードしてお楽しみください。

提供:株式会社IICパートナーズ

中村 淳一郎氏

中村 淳一郎氏
株式会社IICパートナーズ 代表取締役社長

1996年早大商学部卒。(現)有限責任監査法人トーマツにて監査、IPO準備、デューデリジェンス等に携わった後、2004年よりIICパートナーズにて年金コンサルタント・経理部長、執行役員・総合企画室長、取締役を経て2012年より現職。監査人、年金コンサルタント、人事担当、経理担当、経営者といった、さまざまな立場で得た知識と経験を活かした本質を明らかにするアプローチで、IFRS対応退職給付会計講座(アビタス社)など、退職給付会計を中心に、170回を超える講演を行っている。公認会計士、DCアドバイザー、日本アクチュアリー会研究会員。