6月4日 (水) 12:10 - 13:10(提供:HRプロ株式会社)

グローバル・リーディングカンパニーになるために

〜「人で勝つ」組織をつくるLIXIL戦略人事〜

八木 洋介氏

日本GEのHRリーダーとして長らく活躍されていた八木洋介氏が、神戸大学大学院教授の金井壽宏氏との共著で「戦略人事のビジョン」を出版される直前の2012年4月にLIXILグループの人事総務担当の執行役副社長に就任されました。それから約2年。ドメスティック企業だったLIXILのグローバル化が急速に進みました。そして2013-2014年度で成長体制を確立し、2015年度以降は住生活産業の世界ナンバー1企業を目指しています。その「人で勝つ」LIXIL戦略人事を八木副社長に話していただきました。

成長体制を確立したLIXIL Now
LIXILは、LIVINGとLIFEという2つのLIを組み合わせた住生活を事業領域とする会社です。2011年にトステム、INAX、新日軽、サンウエーブ工業、東洋エクステリアの5つブランドが合併してできました。 グローバル化の進展も急で、この数年でアメリカンスタンダードブランズ(アメリカ)、グローエ(ドイツ)などの企業を傘下に収め、アジア・北米・欧州という3大地域でのプラットフォームを確立しました。
もともとLIXILは内需中心のドメスティック企業でしたが、グローバル化が急に進んだのでグローバルに経営する新しい体制が必要になりました。そこでGE出身の藤森義明が2011年8月に社長に就任し、2012年4月にわたしが人事総務担当の執行役副社長に就任したのです。 現在のLIXILの売上高は約1兆6000億円。そして売上高3兆円、営業利益率8%を目指しています。また現在はグローエの売上げは連結に入っていませんが、それを加えると現在でも2兆円近い売上げがあります。3兆円という目標は実現性の高い数字です。
2013年にLIXILは中期経営計画を掲げて過去2カ年の振り返りを行って、2011-12年度をステージ1「One LIXIL:統合基盤の確立(5社統合)」とし、2013-14年度をステージ2「成長体制の確立」、2015年度以降をステージ3「世界に誇れるグローバル企業」と規定しています。
LIXILグローバル経営哲学の5つの柱
現在のLIXILの売上1兆6000億円のうち、国内は約1兆3000億円を占めており、グループ内で日本は圧倒的に大きな存在です。しかしグローバル経営体制の中で日本が特別な地位を占めることはありません。日本もOne of Themの1つなのです。
そしてLIXILのグローバル経営哲学は5つあります。まずローカル化によるグローバル化、ダイバーシティの促進、世界共通のコアバリューと人事制度、グローバルタレントマネジメント、そしてリバース・イノベーションです。
ローカル化によるグローバル化とは、グローカルということになります。海外企業を買収すると、日本企業は日本人の社員を送って監督しようとします。相手からすると日本人が「スパイ」を送ってきたように見えますね。そうするとそれまで経営を支えてきた優秀人材が辞めてしまう可能性が高くなります。LIXILはそんなことはやりません。これまでの経営陣を信頼し、まかせます。
ダイバーシティというと日本ではジェンダーを指し、女性を活用する施策を意味することが多いのですが、LIXILの言うダイバーシティは性別だけでなく、年齢、国籍を含めたあらゆる多様性を指しています。バックグラウンドに関係なく、もっとも優秀な者を活用するのです。
日本企業では優秀な人材を見つけると、将来の幹部候補として中くらいの地位に就けますが、能力のある人材をそのように処遇すると能力を発揮せず、不満をもってしまうことになります。LIXILはそんな愚を犯すのではなく、最もできる人を上で活用しようと考えています。
ローカルを尊重し、実力に応じて選抜しますが、コアバリューと人事制度については世界共通にしなければなりません。これはグローバル経営にとって当たり前のことです。現在は人事共通基盤HRISを構築しているところです。
そしてグローバル人材を育成します。日本だけを重視することはありません。グローバル拠点にいる優秀人材を育成・登用することでグローバル人材を育てます。 イノベーションを日本本社から海外への一方通行で行っている会社がありますが、わたしたちは海外拠点で生まれたイノベーションも大いに取り入れてグローバルな、リバース・イノベーションを推進します。
LIXILのカルチャーと目指す姿

LIXILの経営哲学をベースに形成されるカルチャーは3つあります。まず能力によって登用・処遇されるMeritocracy(メリトクラシー)、多様性を受け入れ多様性の強みを活かすDiversity、そしてだれにでも公平に機会が開かれているEqual Opportunityの3つです。
そして経営哲学とカルチャーの浸透によって、LIXILが目指しているのは、最高の仕事をするために最高の人々が集まる場であり、社員が夢と誇りを実現する場です。それはOpenでFairで多様性に富んだ場であり、すべての社員がRespectされる場でもあります。そして最高のPerformanceとValueを示した者が正当に評価される場がLIXILであり、属性にかかわらず誰でも等しく機会のある場なのです。
グローバルリーダーの振る舞いと役割
グローバルという言葉をユニバーサルと解釈して、どこの国に行っても通用することと考えている人がいますが、私はこれは間違っていると考えています。私にとってのグローバルとはしっかりとした「らしさ」を持って、それをグローバルにシェアすることが基本です。
「らしさ」はWAY、ISM、Value、いろんな言葉で語られます。グローバルリーダーとは、その「らしさ」を体現しながら世界をまたにかけて活躍する人材です。
グローバルリーダーは、日本から世界を見るのではなく、グローバルの視点で日本を見るスケールの大きさが必要です。グローバルの視点から判断し決断し、グローバルなスケールで変革を推進します。
日本語の「リーダーシップ」でAmazonを検索すると5000冊くらいの本が出てきます。「Leadership」と英語で検索すると7万冊くらい出てきます。それくらいリーダーシップについて論ずる本は多いのですが、LIXILではリーダーシップを、ビジョン・コミュニケーション・実行と定義しています。しっかりビジョンを持っていて、ビジョンに基づいて戦略を立て、人とコミュニケーションして動かし、率先して実行する。これがリーダーです。
またグローバルリーダーはつねに学び続ける学習者でもあります。先ほどLIXILの経営哲学として「リバース・イノベーション」を挙げましたが、世界のどこかにbetter wayが存在しており、そのwayから学ぶのです。
グローバルリーダーは、グローバル人材を育てます。またダイバーシティを推進し、創造力と活力を生み出します。
日本人が苦手なプレゼンテーション力は、練習で身につく

グローバルのCommon languageは英語です。日本人は下手です。わたしも下手です。しかし英語は下手でもいいと思います。大事なのはプレゼンテーション力です。日本人は一般にプレゼンテーションが苦手です。練習すれば上達することはできます。アメリカ人、中国人、インド人などは小さい頃から練習しているからプレゼンが上手です。日本人はプレゼンをしっかりと練習する人は希です。練習しないからプレゼンが上達しないのです。
先日マーティン・ニューマンさんと会って話す機会を得ました。ニューマンさんは2020年オリンピックで、日本の招聘チームのプレゼンを指導した人です。招致の模様をご覧になった方は多いと思います。 スピーチはひとりわずか5分でしたが、人によっては50時間リハーサルされたそうです。プレゼンターの方々が懸命に練習され、結果的に招致に成功したわけですが、こういう努力と熱意から学びたいものです。
服装などのインパクトも必要です。正しいことを言ったから聞いてくれるわけではありません。とにかく相手に関心を持ってもらうこと。そのためのインパクトのある服装やエッジの効いたトークも必須です。
リーダーはだれでもなれるのか? なれません。リーダーになれるのは一握りの人です。本物は1000人に1人です。なぜ「1000人に1人」とわたしは主張するのか? その理由はGEでの経験です。
GEは人材育成で世界的に有名な企業です。毎年世界から600人強が選抜されてフロリダに集まります。しかしわたしが見るところ本当にすごい人材はその半分の300人だと思います。GEは30万人の企業なので本物は1000人に1人というわけです。
そして本物になるにも時間がかかります。だいたい1万時間はかかると言われています。とすると1日にリーダーを意識する時間を3時間として1年に1000時間、10年でようやく1万時間です。
人と組織が活発に議論するPOD
ここまでグローバル経営、グローバルリーダーについて語ってきましたが、冒頭に申し上げたように数年前までのLIXILは完全なドメスティック企業でした。北米やヨーロッパの企業買収によって一気にグローバル企業になったのですが、日本本社の文化は国内企業でした。そこでグローバル経営体制の確立と同時に、日本本社のグローバル化も進めてきました。その取り組みの1つがPODです。PODはPeople & Organization Discussionの略で、GEの制度から学んで取り入れた制度です。PODには格納庫という意味もあり、人と組織が活発に議論してLIXILを人材の格納庫のようにしたいという思いから名付けました。PODによって日本のリーダーたちのディスカッションが始まり、People & Organization Discussionの意図は達成したので、現在ではPeople & Organization DevelopmentとPODをより人材育成にフォーカスした形に変えています。
「同質性の罠」に陥り、変われない日本企業

私はよく日本的マネジメントとグローバル・リーダーシップはを対比します。わたしは大学を卒業して日本の鉄鋼メーカーに入社しましたが、典型的な日本的マネジメントの会社でした。日本的マネジメントとは公平で横並びで協調を重んじます。継続性を重んじるので過去を引きずってしまい、コンセンサス重視なので決定に時間がかかります。
グローバル・リーダーシップは逆です。キーワードを挙げれば、 実力主義、ストレッチ、圧倒的な力量と勇気、決断と責任、革新、先見性(インテリジェンス)と強い意志、変化、戦略的一貫性。 日本企業は直ちに解決すべき多くの課題を抱えています。終身雇用、新卒採用偏重、年功序列、長時間労働、会社が決めるキャリア、男の長時間労働、女性の結婚・出産退職と短い勤続年数、低い女性管理職比率。しかし本気で変えようとする企業はあまりないように思えます。
企業文化は変えられる
戦略的人事とは何か? それは人と組織を活用して会社を勝ちに導くことです。「勝ち」とは最高のパフォーマンスであり、人材は業績差別化の源泉です。
そして人事の役割は4つあります。人事管理(HR Management)、人と組織の活性化(People Champions)、企業、事業戦略の実践(Business Partners)、そしてこの3つの真ん中に経営(戦略Vision、変革Communication、実行Execution)があるのです。
しかし多くの人事は人を管理することに重きをおいているのではないかと思います。人を管理するためには制度やルールが便利ですし、実際人事部門で制度企画を重視している会社が多いと思います。しかし、制度やルールは硬直したマネジメントを招きがちで、変化に対応するためには時として障害になってしまいます。企業を差別化していく源泉は人材の活力だと考えていますが、活力は管理されることによっては発現してきません。そういった意味で私はPeople Championという人事の役割を今こそ考えるべき時と考えています。 
変化は着実に上がっています。全世代を対象に4つのリーダーシップコースを立ち上げました。PODを通して実力主義の人事を実践しています。女性管理職比率は2年弱の間に1%から3.5%に上げました。2年前の年休取得率は35%ちょっとでしたが、いまは40%を超えており、近い将来に50%はもとより70%に近づけるのが目標です。家族を会社に呼んで楽しいイベントを実施したり、タウンホールミーティングで社内外のリーダーの話を聞いたり、論文コンテストでグローバル化について考えたり、様々なエンゲージメントイベントに取り組んでいます。企業文化は戦略の一部です。世界で勝てる会社の文化を構築していくつもりです。

講師紹介

  • 八木 洋介氏

    株式会社LIXILグループ 執行役副社長 人事総務担当
    八木 洋介氏

    京都大学経済学部卒業後、1980年日本鋼管株式会社(現JFEスチール株式会社)に入社。主に人事マネジャーとして経験を積み、1992年にはマサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院で修士号を取得。 1996年からは2年半、米国子会社で人事担当、CEO補佐などを歴任。 1999年より13年間GEに勤務し、2002年12月よりGE Asiaおよび日本担当としてシニア HRマネジャー兼日本ゼネラル・エレクトリック株式会社取締役に就任。 2009年1月より日本GE株式会社 取締役シニアHRマネージャーとして、日本全体のGEビジネスの人事を担当。 2012年4月より株式会社住生活グループ執行役副社長に就任し、人事総務・法務を担当している。