6月3日 (火) 13:30 - 14:30(提供:HRプロ株式会社)

グローバルシナジーを阻む4つの格差<日本語.ver>

国境を越えた誤解!グローバル組織力アップ対策とは?

グローバルシナジーを阻む4つの格差<日本語.ver>

企業のグローバル化を進めるにあたっては、国境を越えた高度なコミュニケーションが要求されます。単に社員の語学力向上を図っても、企業内において真のシナジーを生みだすことは困難です。 グローバル化が進む日本企業において見受けられる「グローバルシナジーを阻む4つの格差」を取り上げ、日本本社と海外拠点のより良い協力関係の構築に向けたコミュニケーション改善策を紹介しながら、これら格差を少なくするために、人事部が今実践できることを解説します。

本社と海外拠点間に生じる「文化・情報・組織・個人」の4つの格差
昨今、多くの日本の企業から次のような声を耳にします。 「我々の目指す方向、それは、本当のグローバル企業になること!真のグローバル化!日本人も外国人もひとつのチームとなるグローバルワン!」 それは本当に可能でしょうか。本当にグローバル企業に変身できますか?私の答えを言いましょう。それは可能です。しかし難しい。実現するためには、チャレンジしなければならないことがたくさんあります。それは、どういうチャレンジでしょうか。 私は、アメリカで人事コンサルティング会社と日本企業の海外現地法人の人事部、さらに日本ではユニクロのグローバル人事を経験し、現在は東京でグローバル化を推進する日本企業への人事コンサルティングを提供する会社を経営していますが、その経験の中で、日本企業がグローバル企業へ成長するときに立ちはだかる「グローバルシナジーを阻む4つの格差」というものを発見しました。 格差とは、すなわちギャップです。真のグローバル企業へと発展するために、日本企業の人事部は、本社と海外拠点間に生じる「4つの格差」をしっかり認識し、そのギャップを縮小する必要があります。そうしなければ、本当に現場レベルでのグローバル化は進まないのではないかと思っています。 この格差とは「文化格差」、「情報格差」、「組織格差」、「個人格差」という4つです。今日は、この4つの格差について解説し、HRとして具体的にどう対処できるかをお話ししたいと思います。
文化格差は確かにあるが、文化は自分たちで変えられる
まず、文化格差とは、歴史的な背景や環境の違いにより、ビジネス課題への取り組み方に国・地域ごとの差が出てくるということです。 日本企業は「日本式のやり方」にこだわる傾向があり、他国の文化、価値観、ビジネス習慣が日本文化となじまないと考えがちです。文化格差は確かにあります。しかし、注目していただきたいポイントは、文化自体は時代の流れとともに変化し、ビジネスニーズによって進化するものであるということです。 では、どうすれば文化格差を縮小させることができるでしょうか。重要なことは、人事部が主導して企業文化を変えることです。フォンス・トロンペナースというオランダ人研究者は、地域・国別の文化とコーポレートカルチャーを融合するためのプロセスには、異文化認識を上げる「認識」から、異文化を尊重する「尊敬」へ、文化間の差を埋める「調和」へ、新企業文化を作る「再導入」へという4段階があると言っています。これこそ人事部がやらなければならないことだと思います。 外国人、日本人が一緒にグローバルな会社で働く上では、お互いの文化の違いを認識し、尊敬することは大事です。しかし、多くは「尊敬」の段階でとどまっています。それは一番危険です。尊敬するだけで、「やはり、これが我々日本人の働き方です。それは外国人のやり方です」というのでは、ひとつのチームになれません。このグローバルな時代において、我々に何が必要とされているのか、議論しながら調和を求め、新しい企業文化を再導入していくということに、ぜひ人事部が主導してチャレンジしていただけたらと思います。
必要なのは英語力だけではなく、グローバル情報交換能力を向上させること

グローバルシナジーを阻む4つの格差<日本語.ver>

次に、2つ目の情報格差とは、社内共有情報アクセスの不平等により、社内コミュニケーションが非効率になるということです。 たとえば、日本企業ではたいていの場合、重要な情報は日本語のみで書かれています。通常、多言語に訳されるのは限られた情報のみで、結果的に情報へのアクセスは日本人社員が優先されています。日本本社から海外拠点へ向けた「迅速で効率的な情報発信能力」が不足しているため、日本企業のグローバル競争力が低下することにつながってしまうのです。日本本社の方と海外拠点の方が一緒に仕事をしようとしても、前提となる情報が共有されていない中で、本社の意向、やろうとしていることが海外の方にはっきり伝わっていない状態だということです。 この情報格差を縮小するために、人事部としてできることは何でしょうか。それは、企業内におけるグローバル情報交換能力の向上をビジネスの優先事項として認め、社内コミュニケーションを常に向上させるということです。 グローバル化対応というと、日本人社員にTOEICを受けさせて英語力を上げることに力を入れる企業が多いのですが、それだけではなく、実践的なグローバルコミュニケーション能力の向上が期待できる仕組みを用意することが必要です。自分の言いたいことをどのようにすれば外国人に伝えられるのか、研修でトレーニングすることも一例です。 そして、それだけではなく、人事が他部署と連携し、いま、会社がグローバルビジネスを進める上で、社内での情報発信・共有が十分に行われているか、どのような情報交換が実際に必要とされているか、どういったシステム、プロセス、またはスキルが足りないのかといった課題を把握することも重要です。その上でグローバルな情報交換能力を高めていくことが、情報格差を縮小するための対策となります。 また、グローバルイントラネット、グローバル社内報、ビデオ会議システム、あるいはスカイプ、フェイスタイムなど、日本人と外国人が情報交換するためのコミュニケーションツールはきちんと整備され、活用されているでしょうか。英語力テストだけではなく、そうしたことについても人事がチェックして、何が必要か、検討し、投資するということに取り組んでいただきたいと思います。
日本本社のグローバルガバナンスの問題が組織格差を生む
次では、情報が共有された上で、我々は国境を越えたひとつのチームになれるでしょうか。もうひとつ、組織格差という大きな課題があります。これは、所属組織や勤務先のあいまいな組織間におけるレポートラインにより、従業員が会社の方向性を同じレベルで理解せず、業務上の優先順位にズレが出るというギャップです。 いったいどういうことが起きているのか。日本本社がグローバルガバナンスをうまく機能させていないため、海外拠点における各部署の役割や権限があいまいなまま放置されており、その結果、企業内の国境を越えたコラボレーションが難しくなっているのです。 注意していただきたいのは、この組織格差には、本社がグローバル全体を見る、海外拠点が目の前の市場を見るといった、役割上、自然に出てくるものと、本社のガバナンスに問題があって発生するものの2つがあるということです。日本企業では、後者の組織格差が目立つケースが多いのではないでしょうか。海外拠点の方々は、自分たちにどこまで権限があるのか、どこまで役割を果たすべきか、これは本社にやってもらうか、こちらでやるのかといったことがあいまいなままで、毎日仕事が進んで終わっている。しかし、これは人事が影響できる範囲の課題だと思います。 人事部は、グローバルコミュニケーションおよび国境を越えた協力関係を推進させるための対策や、新しいポリシーを検討、導入することによって、組織格差を縮小することができます。 たとえば、海外拠点に対し、本社側の立ち位置を、コントロール役なのか、協力役なのか、サポート役なのか、明確に示すことです。これを明確にしないままグローバルプロジェクトを進めようとしてもうまくいきません。ある企業では、いろいろなグローバルプロジェクトが動き出していますが、複数の地域が重複したデータベースを作っており、それを本社がきちんと見ているかというと、残念ながらできていません。グローバルにコラボレーションしていく上では、本社の立ち位置はどういうものがふさわしいのか、まず本社で議論して答えを出し、その立ち位置の理解のもとで行う必要があります。 また、経営理念研修プログラムを全世界の拠点で導入することも有効な対策です。海外拠点と本社の間には当然距離がありますが、グローバルワンとなるためのひとつの接着剤は理念です。ただし、理念を他言語に翻訳するだけではいけません。その理念の根本は何かを発信して、海外の方々にも、これはどういう意味か、現地でどう取り入れるかなど議論していただくことが非常に大事です。 そのほかにも、グローバルポリシーガイドラインなどを作成し、海外拠点とともに展開する、あるいは、拠点・地域を越えてグローバルチームの形成をサポートするなど、人事部ができることはたくさんあります。
先入観を乗り越え、人々をよく知る努力が求められる

グローバルシナジーを阻む4つの格差<日本語.ver>

最後は個人格差です。文化格差、情報格差、組織格差が解決されたとしても、従業員それぞれの個性、経験、モチベーションが違うということは無視できません。大事なことは、人を型にはめたり、ステレオタイプな目で見たりしないということです。よく「日本人同士は以心伝心、言わなくてもわかる」と言いますが、同じ日本人でも考え方はずいぶん違うと私は感じます。アメリカ人はこうだ、タイ人はこうだといったことも、なかなか一概には言えません。 人事部が行うべきことは、先入観を乗り越え、社内の人々をよく知る努力をすること、「現場・現物・現実」をベースにしたタレントマネジメントを徹底することだと思います。人材を集め、データベースを構築することは大事ですが、データベースだけに頼ってはいけません。これからの海外の次世代リーダーは誰かというときなど、グローバルリーダーシップの育成プログラムを実施すれば、実際に人材のポテンシャルを自分たちで見極める良い機会になるでしょう。 日本企業が真にグローバル企業へと発展するためには、いまご説明した4つの格差を人事部が認識し、そのギャップを縮小することです。今日はそのための具体的な対処方法もご紹介しました。 もちろん、こうしたことをすでに実施されていて、グローバル化を本格的に進めている日本企業もたくさんあります。ただ、その一方で、残念ながら文化格差を言い訳にして、グローバル化がなかなか進まない企業も少なくありません。そうした企業では、まず人事の方々が考え方を変えるということが必要だと思います。私がお話ししたことがみなさんのお役に立てば幸いです。

講師紹介

  • ブライアン シャーマン氏

    元ユニクロ 人事部 (グラマシー エンゲージメント グループ株式会社 代表取締役)
    ブライアン シャーマン氏

    グラマシー エンゲージメント グループ株式会社 代表取締役。 米国ニューヨーク市にて、日系企業を対象に人事コンサルティング業務に従事。米国住商情報システムズ株式会社人事総務部長。 来日後、株式会社ファーストリテイリングにて、グローバル人事戦略業務に参画。 国内外で企業を内と外の視点から見てきた経験をもとに、日本企業の抱えるグローバル人事課題の解決にあたる。 2010年 グラマシー エンゲージメント グループ株式会社を設立。グローバルという大海原に人材を送り出す日本企業の水先案内人として、人材育成、グローバルファシリテーション、コンサルティングを提供する。 米国ニューヨーク州出身 米国Williams College卒業