HR Technology Conference & Exposition 2017 レポート(前編)

IT技術を活用した人事領域のソリューションが一堂に会す世界最大のイベント「HR Technology Conference & Exposition」。第20回を数える本年は、10月10日~13日にアメリカ・ラスベガス、ベネチアンにて開催されました。HRプロ編集部による現地視察レポートをお届けします。

■過去最大・出展企業数は過去最多の425社

今回のHR Technology Conference & Expositionは、来場者は約9,000名、出展企業数は425社で、過去最大のイベントになりました。会場のベネチアンは、ラスベガス最大の展示場「サンズ・エキスポ」を含む総合リゾート施設であり、今回のHR Technology Conference & Expositionの展示会場は東京国際フォーラム展示場(Hall E)の約3.5倍もの広さです。展示は10日の夕方2時間と11日、12日の終日2日間の開催期間で、一人ですべてを見ることはとても無理でしょう。
会場は、入り口近くが大手ベンダー、奥に行くにつれて中堅ベンダー、小規模・ベンチャーのブースが並んでいます。入口の最も目立つ場所は、SAP SuccessFactors、Saba Software、Oracleでした。その後ろにIndeedとCornerstone OnDemandがあり、日本にも進出している大手企業がメインとなっています。
続いてCareerBuilder(採用管理)、Kronos Incorporated(人員配置管理)、Avature(採用管理、タレントマネジメント)、Ultimate Software(人事管理)、Ceridian(給与・人事管理)、TMP World Wide(採用管理)といった、日本未進出のグローバル企業が並びます。
そのほかの大型ブースとしては、日本のワークスアプリケーションズのアメリカ法人が提供するAI WORKS(採用・タレントマネジメント・人事管理)、日本進出企業のSumTotal, A Skillsoft Company(人事管理)、Google(採用管理)、HireVue(ビデオ面接)、SilkRoad(オンボーディング、人事管理)などが出展しています。


■クラウド化が主流、最多製品・サービスは「タレントマネジメント」

HRテクノロジーの観点で見ると、ほとんどすべての製品がクラウドで提供されるようになってきました。今では、クラウドは差別化要因というより、必須要因であると多くの人事は考えているようです。

出展サービスは35のカテゴリーに分類されています。サービス数の最多は「タレントマネジメント」で84社、2位は「リクルートメント」77サービス社、3位は「エンゲージメント&レコグニション」63社、4位が「オンボーディング」52社、そして5位が「ワークフォースプランニング&アナリティクス」44社となっています。(表1)

人事領域において「タレントマネジメント」を提供するテクノロジーが最多出展数であることは、タレントマネジメントの遂行にはITテクノロジーが必須であることの証左です。Oracle、SAP SuccessFactorsといった大企業による製品・サービスからスタートアップまで、企業規模などによって異なる多様なニーズを満たすために、数多くのサービスが生み出されています。VUCAといわれる現在、経営には企業の資本である人材=人財を「見える化」し、リアルタイムで自社の力量を把握していることが求められているからに他なりません。

2位の「リクルートメント」は、新卒一括採用が主流の日本とは異なり、海外では通年での採用が一般的であるため、煩雑な採用管理をシステム化することにより業務効率を向上することが求められるという背景があります。従来からある採用進捗のトラッキングや、面接者とのスケジュール管理だけでなく、応募者が希望する仕事をより快適に探せるようにAI(機械学習)を組み込んだGoogleのリクルーティングサービスなど、高度なテクノロジーを活用したものが出てきました。

3位「エンゲージメント&レコグニション」が63サービスもあることには、驚きを隠せません。日本では「従業員満足度」の考え方が根強くあり、組織とゴールに対しての従業員の心理的なコミットメントを表す「従業員エンゲージメント」の考え方は普及途上です。今回63ものサービスが出展しているということは、世界的にはエンゲージメントやレコグニションが人事において重要視されていることの現れだと言えるでしょう。レコグニションとは、褒賞制度のこと。日本では褒賞にHRテクノロジーを利用するイメージがありませんが、たとえばO.C.TANNERでは、アワードや褒賞プログラムを作成し、テクノロジーを使って目標と達成を計測したり、金銭的報酬を与えたり承認する人を決定するシステムを提供しています。

4位の「オンボーディング」も、日本では聞きなれない言葉ですが、52社ものベンダーが出展しています。オンボードとは船や飛行機に乗っていることで、企業で使われる場合は、内定者が入社し実務に就くまでの様々な手続きをサポートすることを指します。入社にあたって必要な書類の手続きや、入社後の備品、手続き、研修などを管理して、人事や受け入れ部署の事務負担を軽減し、入社者の体験をより良いものにするのがオンボーディング・システムです。HRテクノロジーのなかでは比較的新しいものですが、日本よりも人材の流動化が高いアメリカでは採用管理システムと同様にニーズが高い分野で、SilkRoadやVibe HCMなどがあります。

5位の「ワークフォースプランニング&アナリティクス」は44サービスあります。日本では現場単位でエクセル対応をしていることが多く、本格的な人員配置管理システムを稼働させている企業は、一部の大企業に限られているかもしれません。また勤怠・就業管理システムやプロジェクト管理システムを用いて配置管理をしている企業もあるでしょう。米国市場では、もともとワークフォースプランニングの活用は定着していますが、最新のテクノロジーを搭載した製品はアナリティクス機能に加えて、事業プランに基づいた将来の従業員数、関連支出を予測してモデリングできることが特徴です。

「健康」「従業員&管理者セルフサービス」「ビデオ面接」は、日本での導入実績はまだ少ないものの、労働人口減少や働き方改革の進展による生産性向上を追求する傾向の増加により、今後は普及してくる分野だと思われます。


■主催社がおすすめするトップ13ベンダー

425ものHRテクノロジーのうち注目すべき企業はどれか、本会を運営するLRP Publicatiosのリーダー、Rebecca MacKennaさんに伺ったところ、IBM、Oracle、SAP SuccessFactorsのビッグ3を含む13社を選んでくださいました。選択された理由は、ホットでエキサイティングな製品を有していること、企業や組織文化に良い影響を与えるものであること、そしてグローバル展開していることの3点です。(表2)


■激化する人材獲得競争を勝ち抜くためのHRテクノロジー、AI

今年のHRテクノロジーで気になるAIはどうだったでしょうか。展示ブースを見る限り、AIを謳ったバナーやコピーなどの派手なアピールは見かけません。もっとAIが全面的にでているのかと思っていたのですが、そうでもありませんでした。そうしたなか、AIを冠にしてブース展開していたのがワークスアプリケーションズの「AI WORKS」です。AI WORKSはアメリカ市場ではニーズの高いリクルーティング・クラウドを展開しています。
現地Executive Vice Presidentの野村修平さんに伺ったところ、「ユーザーがより新しいテクノロジーを探している点が、昨年とは違います。しかしAIによる開発はコスト・時間がかかるため、多くのベンダーはまだ対応できていません」とのこと。スタートアップ企業により単一機能でAIを活用しているものはありますが、リクルーティングを筆頭に育成・配置・人員計画まで網羅し、統合的に業務を効率化できるAIを使ったシステムは、AI WORKS以外には見られないそうです。AI WORKS は、日本で展開しているHUEの機能を、アメリカでの人事業務に最適化させて提供しています。

一方、単一機能のAIとはどのようなものなのでしょうか。たとえばリクルーティングのテクノロジーとしては、Enteloが挙げられます。アメリカではダイレクトソーシング(企業採用担当者が、候補者を直接探して応募につなげる採用方法)が主流です。LinkedInや転職サイトでのスカウトだけでなく、そうしたサイトへ登録していない「潜在的転職希望者」を探し出してアプローチしなければ、今や優秀な人材を獲得することができません。Enteloを使うと、もしデータサイエンティストを採用したいならば、AIがインターネット上の情報(たとえばデータサイエンティストのコミュニティなど)にアクセスして最適な人を探し当て、自動でメールを送ります。人が経験からWEBサイトを検索して探すという作業を、AIが行ってくれることで、時間効率を向上させるわけです。

人事業務の煩雑さを解決するAIとしては、OracleのChatbotがあります。たとえば人事に頻繁に問い合わせがある内容については、従来はFAQを用意したり、担当者がメールや電話で回答するという方法が主流でしたが、人事ヘルプデスクにChatbot を活用すれば、SNSのような使い勝手で従業員からの質問にChatbotが自動で回答してくれます。データベースのイメージが強いOracleですが、人事向けのソフトも幅広く展開しており、買収製品も含めて人事関連システムのクラウド化が進んでいます。採用、タレントマネジメント、人事管理など人事業務全般にわたって統合されたシステムをクラウドで提供しているとのこと。HR領域においてクラウドベンダーは中小規模が多かったのですが、ここへきて大手ベンダーのクラウド化も加速しています。

入口の最も目立つ場所で展示をしていたSAP SuccessFactorsでは、人事管理のデモを行っていました。ダッシュボードで企業の人事状況を把握し、ブレークダウンして各組織の情報を参照できます。また今後のビジネス環境の変化へ対応するために、数年後の人材バランスがどうなるのかを予測する機能が搭載されていました。これもAIの一環といえるでしょう。

IBMはAIであるWatsonを出展していましたが、思いのほか小規模なブースでデモを行っていました。しかし予約表にはデモを希望する人事の名前がずらっと並び、人事の関心は高いと見えます。AIとしては認知度が高いものの、どういう活用をしたいかによってカスタマイズする必要があるため、ユーザー側のニーズの明確化やデータ収集能力が問われるサービスなのかもしれません。

HRテクノロジーは、労働環境の変化に対応して著しく発展しています。ユーザーが新しい技術によるソリューションを求めており、ベンダーはより速い技術開発によってそれを提供しようとしているのです。今年のエクスポでは、AIの活用による先進的なソリューションの提供は、一部の大企業や投資を得られたスタートアップに限られているようでした。
しかし今後、ユーザー企業がAIを使って生産性向上のメリットを享受していくためには、AIに機械学習をさせるためのデータを先に蓄積しておかなければなりません。人材獲得競争が激化するなかで、より優秀な人材を引き寄せ、エンゲージメントを高め、効果的に育成し、健康を維持し、離職を防止して社内で活躍してもらうためには、人事がHRテクノロジーをどれだけ効果的に活用するかがキーとなるでしょう。
日本企業のHRテクノロジー活用はまだまだ遅れていますが、1日でも早く導入を進めることが、AI時代に人材獲得競争に勝っていくために必要ではないかと強く感じました。