【HRテクノロジーコンソーシアム(LeBAC)関西WGセミナーレポート】テクノロジーの進化がもたらす経営と人材マネジメントの変革

 近年日本でも人事におけるテクノロジー領域の取り組みが進んでおり、AIの進化に伴い、その可能性はさらに広がっています。しかし一方で、テクノロジーを人事にいち早く導入している企業と、そうでない企業の二極化も進み、その差がどんどん広がってきているのも事実です。そこで今回はHRテクノロジーに詳しい岩本隆氏をお迎えし、HRテクノロジーを取り巻く最新の情報をご紹介いただき、テクノロジーが経営と人材マネジメントに何をもたらすのか検証します。

海外のHRテクノロジーの推移

 近頃日本でも注目を集め始めているHR テクノロジーですが、実は海外では20年ほど前から注目されていました。例えば、「HR TECH」という商標は、1998年にHuman Resource Technologies社が取得。また「HR TECHNOLOGY」は、2000年にLRP Publications社が商標登録しています。決して新しい話ではないのです。
 しかし、コンピューティングやクラウドテクノロジーの進化により、この数年で一気に注目が高まりました。今やノートパソコンでビッグデータの分析が可能なほどです。そうした中、タレントマネジメントという言葉に代わってHCM(Human Capital Management)という言葉が台頭。実際に、多くのタレントマネジメントベンダーがHCMという言葉を使い始めています。またスタートアップへの投資額も急増。HRテクノロジーの世界は基本的にスタートアップが多く、大企業もスタートアップを買収して大きくなっています。
 そして直近で大きな盛り上がりを見せているのが、HRテクノロジー関連のイベントです。例えばLRP Publicationsが毎年開催している「HR Technology Conference & Expo」は、今年で19回目を迎え、大きなイベントとして定着しました。また欧米だけでなく、アジアでも関連イベントが急増。ここ日本においても開催されています。

日本におけるHRテクノロジーの状況

 日本では2014年頃から注目され始め、最初にリクルートホールディングスがベンチャーキャピタルを立ち上げました。その後、groovesが「HR Tech」という商標を取得し、日本初の人事領域における人工知能研究所を設立。さらにリクルートホールディングスも「Recruit Institute of Technology」を設立しました。最近ではビズリーチやテンプホールディングスなどもHRテクノロジー関連の研究所やファンドを設立し、日本でもようやく動きが活発化しています。
 また2016年には日本初のHRテクノロジー関連イベントも開催されました。それが「HRテクノロジーサミット2016」(主催:ProFuture株式会社)です。日本のHRテクノロジーと人事ビッグデータ(アナリティクス)の優れた取り組みを各部門別に表彰するというもので、大賞に輝いた日本オラクルの『クラウドテクノロジーを最大限活用し、世界中の社員相互をインターコネクト(情報・人材を繋ぐ)する採用、人材育成戦略の展開』など、合計20社の先進的な取り組みが表彰されました。

HRテクノロジーのオポチュニティ

 ではHRテクノロジーの進化は、経営や人材マネジメントにどのような影響をもたらすのでしょうか。そもそも多くの日本企業は、まだまだ「経営者の勘と経験」や「過去積みあげた企業文化」で経営判断をしています。そういう意味でもテクノロジーが活用される可能性は、広くて深いと言えるでしょう。もちろんテクノロジーによる客観的なデータがあっても、最終的には人の判断が欠かせませんが、今までは判断材料なしで、経営や人材マネジメントが行われてきました。しかし今後HRテクノロジーの進化によって、判断のための材料はどんどん充実していくでしょう。

産業人材に対する取り組み

 経済産業省に「産業人材政策室」が設置されるなど、現在国が中心となって産業人材に対する取り組みが進められています。その中で産業人材に求められる「社会人基礎力」が定義されました。「社会人基礎力」は、前に踏み出す力、考え抜く力、チームで働く力の3つの能力から構成されており、近頃は大学などでもこうした人間としての基礎的な能力を身につけるカリキュラムが増えてきています。
 一方で、第4次産業革命による就業構造の変革も見られます。代表的なのが、ホワイトカラー業務の効率化・自動化を推進するRPA(Robotic Process Automation)や、IoT・AI・ロボットなどの活用です。現在日本では多くのトップ人材が海外に流出しており、一方で多くの仕事において低賃金化が進んでいます。この流れを変えるためにも、ロボットなどを活用し、新しい仕事を作っていかなければなりません。よくテクノロジーが人の仕事を奪うと言われていますが、逆に言えば人でしかできない仕事をどれだけ創造できるかが、勝負の分かれ目になるでしょう。つまりテクノロジー活用が進むと、人は、「テクノロジーでできない(=人でしかできない)」付加価値の高い仕事に特化でき、さらに高い付加価値を生み出せるのです。

健康経営による経営の変革

 経済産業省は、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業を「健康経営銘柄」として選定しています。健康経営を推進することで生産性を高めて、GDPを上げていこうという考え方です。過去2年間で33社が健康経営銘柄に指定されていますが、この度さらに、2020年までに500社を「健康経営優良法人(ホワイト500)」として認定する制度を作りました。企業によっては健康経営を導入したことによって業績が上がったり、残業を減らすことによって生産性が向上したなどの事例も少なくありません。また最近は、一般企業だけでなく自治体や病院などでも健康経営を取り組み始めています。そしてこの健康経営の領域においても、収集したデータを活用するなど、テクノロジーの導入が進められています。

HRテクノロジーによる経営の変革に向けて行うべきこと

 HRテクノロジーの分野では現在多くのベンチャーが生まれており、私たちはこうしたHRテクノロジーの進化を常にウォッチする必要があります。HR部門とテクノロジー部門が連携したり、HRアナリティクス部門を立ち上げることがポイントでしょう。またHRの領域はとても広いので、すべてのことを一気に行うよりも、経営の方向性に対して何からどう手をつけていくべきか、きちんと整理しておくことが重要です。さらにデータをたくさん持っていても、使えるデータと使えないデータがありますので、どのデータを、どういう目的で整備するか明確にしておく必要もあります。
                   
 データの世界では、データを蓄積することで差が生み出されるため、他よりも早く取り組んだ企業と乗り遅れた企業との差が開き続けます。つまり先にデータを集めた者が圧倒的に勝つのです。よってこれを機会に、ぜひ皆様にも積極的に取り組んでいただければと思います。本日はご静聴、誠にありがとうございました。

prof03岩本 隆 氏
慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授

東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)工学部材料学科Ph.D.。日本モトローラ株式会社、日本ルーセント・テクノロジー株式会社、ノキア・ジャパン株式会社、株式会社ドリームインキュベータ(DI)を経て、2012年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)特任教授。