【「Future of HR」~これからの人事はどうあるべきか~】第1回 AI時代の採用はどうなるのか

経済のグローバル化や少子高齢化の進展などによって、戦略目的を達成する上で必要な「人材の確保」は最も重要な経営課題となってきた。日本企業の実に83%が人材不足を課題としており、グローバル平均の38%を大きく上回っているのだ(*)。一方、AI(人工知能)の発達やビッグデータアナリティクスなどにより、これまで実現できなかった「サイエンス」の視点を導入した採用や人事マネジメントが可能になってきた。経営環境が大きく変化する中で、人事は成長の源泉となる人材の確保や人事マネジメントにどのように取り組み、どのような方向性を目指していけばいいのだろうか。

戦略的人的資源管理論を専門とする一橋大学商学研究科教授の守島基博氏と、日本アイ・ビー・エム株式会社でフォーチュン・グローバル500企業の半数以上が採用する人材マネジメントツール「IBM Kenexa(ケネクサ)」を担当する民岡良氏が、人事の課題とテクノロジーを活用したソリューションについて対談した。

*マンパワーグループ調査(2015/6/22)

morishima_prof一橋大学商学研究科教授 守島 基博
1982年慶應義塾大学大学院社会学研究科社会学専攻修士課程修了。86年に米国イリノイ大学大学院産業労使関係研究所博士課程修了、組織行動論・人的資源管理論でPh.D.を取得し、カナダ・サイモン・フレーザー大学経営学部助教授。90年慶應義塾大学総合政策学部助教授、99年同大学大学院経営管理研究科教授を経て、現在一橋大学大学院商学研究科教授。主な著書に『人材マネジメント入門』(日経文庫)『会社の元気は人事がつくる』(共著、日本経団連出版)などがある。


tamioka_prof日本アイ・ビー・エム株式会社 ソーシャル事業部 インダストリー営業部 課長 シニア・ソフトウェアセールス・スペシャリスト 民岡 良
1996年慶應義塾大学経済学部を卒業後、日本オラクル株式会社に入社。同社にて、ERPシステムの教育事業に従事。SAPジャパン株式会社においては人事管理システム(SAP ERP HCM)の導入、認定コンサルタント養成プログラムでの講師を担当。その後、人材エージェント業務を経て、日本IBM株式会社に入社。Kenexaを活用したタレントマネジメント/採用・育成業務プロセス改革に従事している。その他、「組織に頼らない人材の育成」を目的とした一般社団法人の立ち上げと運営の経験がある。

テクノロジーの進展と今後の人事のあり方

民岡 守島先生は戦略的人的資源管理論の専門家であり、日米の企業の人事について実践的な研究をされてこられました。そして、かなり早い段階から「人事にはクリエイティビティが求められる」と主張されてきました。昨今、飛躍的にテクノロジーが進化していますが、現代の人事がすべきことは何でしょうか。

守島 人も企業も、環境が変化した時には新しいことを試みることが必要です。日本の人事は過去30年以上、主に工場現場で働く人材の育成と活用をものすごく上手くやってきました。また、そのやり方をホワイトカラーに適用して、新入社員から中堅の育成、活用までは成功しています。そうして足腰の強い組織は作れたけれども、リーダーやトップをつくることが上手くなかったので、組織を率いるリーダーが不足しています。そこがいまの大きな課題だと思っています。

民岡 ビジネス環境がものすごいスピードで変化し続ける昨今、組織に変革をもたらすことの出来る人材や強力なリーダーシップを発揮出来る人材の獲得・育成が必要ですね。そのためには、今こそ人事がクリエイティビティを発揮すべき時ではないでしょうか。一方で、人がクリエイティビティを発揮するためには時間的な余裕や心のゆとりがなければ難しいのではないかと感じます。AI(人工知能)やビッグデータを活用して、頼れるところは頼っていいという環境が整えば、その時間をクリエイティブな仕事に振り向ける素地ができると思うのですが。

守島 そうですね。いま人事に求められるのはデータを活用する「サイエンス、つまり科学」の視点です。「AIが進むと人事はどうなるか」という議論のなかで、「AIなどの優れた技術が利用できれば、人事の仕事を効率化してくれる」という考えがあります。しかし私は、効率化によって生まれた時間を使い、どうクリエイティビティを発揮するか、それを考えるのがより重要だと考えています。さらにその先の段階では、機械と人間がコラボレーションしていくようになるでしょう。ですからこれからは、技術に任せられるところは任せていくことが大切で、本来人事が行うべきクリエイティブな仕事をできない人事担当者は淘汰されていくでしょう。

民岡 昨今「AIが人間の仕事を奪う」とまことしやかに囁かれていますが、確かにクリエイティビティを発揮できない人間からは仕事が奪われる。これはやむをえないと思います。ただし、総論として人間がAIに取って代わられるということには、そう簡単にはならないのではないでしょうか。人材不足がますます深刻化する中、これからは人間が不得意とする作業でAIが得意とする作業はAIに任せ、人間は人間にしかできない「発想力」「創造力」「熱いハート」が求められるような分野で力を発揮することになると考えています。


AIによりビッグデータを採用の意思決定に活かす

守島 テクノロジーを人事業務に適用するというとき、私は特に採用の分野に興味があります。特に人事が、人と組織・業務を「マッチング」するときに、能力や資格など比較的デジタル化しやすい部分と、「この人と一緒にやっていけるか」というフィーリングや組織が大切にする価値観のすり合わせみたいなものがある。それらをどのように切り分けて、テクノロジーを有効に活用していくかということが重要であると思います。
ただ、現在は人間が両方のマッチングを面接などを通じて行っていることが多く、しかも能力・スキルのマッチングに時間を取られて「フィーリング」のマッチングが十分に行われていない。または、組織の価値観とのマッチングを見ると言いながら、面接者のフィーリングのみの合否になっている。結果として、候補者の価値観や考え方と企業のそれとお擦り合わせができていないことも多いと思われます。
そのあたり、テクノロジーの活用でうまく解決はできないのでしょうか。
民岡 おっしゃるとおり、採用において重要視されているのは能力・スキルの面で、価値観や考え方には及ばない状況が多くあるかと思います。能力やスキルはデジタル化し客観的指標で評価できるものですから、そこに時間をかける必要はなくなります。
「IBM Kenexa(ケネクサ)」では、能力・資格・特性をコンピテンシーと呼び、それぞれの企業が考える「優秀人材」を「コンピテンシー体系」によって客観的に表現します。既存の従業員を対象に実施したアセスメントの結果から「優秀人材」の共通項を割り出し、それをコンピテンシー体系で表現するのです。
共通項の割り出しにAIを活用すれば、より高度な人材モデリングを行うことができます。そうすれば、採用における能力・スキル面の評価は簡素化され、フィーリングや価値観に対する議論に時間をかけることができます。また、採用担当者が変わっても「優秀人材」の定義は変わらず、その担当者の主観、あるいは暗黙知に頼った「職人技」による採用を防ぐこともできるようになります。

守島 「優秀人材」について、既存の従業員や現在社内に居るリーダーなどはある程度科学的に分析できると思うのですが、企業にとって本当に必要なのは、5年後、10年後にリーダーになってくれる人、未来に貢献してくれる人材です。その点は、テクノロジーはどう解決するのですか?

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新卒・中途採用の課題や、採用・人事におけるAIの活用など、お話はまだまだ続きます。