AI×HRテクノロジーの最前線5:人工知能が採用・管理・配置を変える! ~AIと人間科学の融合編~

各種の人事関連データをクラウド型のシステムで管理するとともに、データの処理や分析にAIを活用するサービスが増えている。さらに最近では、AIでの分析にさまざまな人間科学を応用するシステムやサービスも登場、注目を集めはじめた。そうしたトレンドを確認するとともに、自社内でAI人材を育成することの重要性についても考えてみよう。

AIは使いこなせる人がいてこそ能力を発揮する

デジタル化された人事データを、クラウド上のシステムで管理し、人事部や各事業部のマネージャーがネットワークを通じてアクセスできるようにする。爆発的な普及を見せているこうしたシステム/サービスでは、人事情報の処理をAIに担当させることが最近のトレンドだ。

データを分析・比較し、ある事実と別の事実の関連性や、全体的な傾向などを抽出する、というのが、人事領域においてよく見られるAIの用途。人間には気づきにくい、あるいは読み解くのに莫大な時間を要する“何か”をAIの力で発見できれば、それに対する効果的な打ち手を考え、実行に移すことも可能になる。AI活用型の人事データ管理クラウドシステムや分析サービスでは、そんなメリットを前面に打ち出している。

たとえば配置・配属・人材育成。従業員の職歴、勤怠データや目標達成度、上司からの評価と自己評価などをAIに分析させた結果、「〇〇部と△△部の業務を経験し、かつ□□研修を受講したことのある30代の社員は、自社へのエンゲージメントも生産性も他の従業員より15%以上高い」といった関連性・傾向が判明したなら、どうだろう。該当する人材をハイパフォーマーとして優遇する、将来のマネージャー候補として大切に育てる、若手の育成に同様のジョブローテーションや研修を採り入れる、といった施策が考えられる。

また「入社3年以内に離職した社員は、目標達成度は十分、自己評価も高いが、上司からは低評価で、金曜日に有休を取る率が高かった」といった事実がわかれば、同様の傾向を示している社員をフォローすることで離職防止も図れるだろう。

ただ、AIといえど万能ではない。AIによるデータ分析においては、データの準備とAIへの指示、分析結果の読解が重要となる。どんなデータをAIに学習させ、どんな手法で分析させて、どんな形で出力させるのか。そのアウトプットからどのような傾向を読み解き、その結果をもとに、どのような施策を提案するのか。そうした「人間の仕事」があってはじめて、AIも輝くことになる。

これらを受け持つのが、データサイエンティストと呼ばれる人たちだ。「人事データをAIで分析します」と謳うシステム/サービスの提供事業者は、多くのデータサイエンティストを擁し、必要なデータの整理、分析手法の確立、見やすいアウトプットに配慮したシステム設計などに取り組んでいる。そう考えれば、AIよりもむしろデータサイエンティストの方が重要度は高いとすらいえるだろう。

AIと人間科学を融合させた分析サービスが登場している

近年、「人間科学とAIの融合」をアピールする、新たなAI活用型人事サービスも増えてきた。AIによって人事データを分析する際、各種の科学的知見を盛り込むことで、さらに深層的なアウトプットを導き出そうという試みだ。こうしたシステム/サービスの例をいくつか見てみよう。

●『KAKEAI』(株式会社KAKEAI)
https://company.kakeai.com/
「科学とテクノロジーで現場におけるピープルマネジメントを変える」ことを標榜するAIクラウドシステム。まず現場マネージャーとチームメンバーは、WEBシステム上で簡単な質問に回答する。回答は脳科学を応用した分析にかけられ、各人の“仕事のパフォーマンス発揮に関わる特性”が明らかとなる。マネージャーと部下の特性や現在の状況をもとに「このような対応が有効です」などとガイドしてくれるのが、このシステムの特徴だ。

ある部下が困っているとき、叱咤すればいいのか、慰めればいいのか。関わり方(ピープルマネジメント)は上司であるマネージャーの勘・思い込み・経験に依存していた。それゆえコミュニケーションのズレが生じていたわけだが、『KAKEAI』はこの問題を脳科学×AIによる分析で解消しようという取り組みだ。1on1ミーティングの質の改善、マネージャーへの研修アレンジ、人員配置などに役立てられることになる。

●『SUZAKU』(株式会社エスユーエス)
https://haiq-i.net/suzaku
株式会社エスユーエスが開発した「HQ Profile」は、組織心理学をベースとしたアセスメントツール。すでに17年に渡る運用実績と、3,000社への導入実績を持つという。組織で求められるヒューマンスキル(対人関係能力/周囲との協働・調整を図る能力)とコンセプチュアルスキル(概念化能力/抽象的に物事を考え、それを具現化する力)を測定し、思考プロセスや行動特性を可視化する、というものだ。

この「HQ Profile」をもとに、組織と人の特性をAIが定量的に解析・学習し、さまざまな提案を実施してくれるサービスが『SUZAKU』。社員のデータを学習する事で採用マッチングの精度が高まり、さらには配置・育成、組織の可視化などにも活用できるとしている。組織心理学×AIという手法で作られたマッチングソリューションである。

●『タレント特性モデリング・サービス』(株式会社ICMG)
https://www.icmg.co.jp/
シンガポールのベンチャー企業MERCURICS(マーキュリクス)社とのパートナーシップによってスタートしたサービス。心理・行動科学を学習した「MERCURICS AI」で、採用候補者・配置候補者の行動特性を分析、自社が求める人材モデルとの適合度を判定する。行動特性の判別軸や人材タイプの分類は、利用企業ごとにカスタマイズすることも可能だ。

「採用担当者と同じタイプの人材ばかり採用してしまう」、「配置に関する明確な基準やキャリア目標の設定がないため、人材配置が場当たり的」、「階層別研修など育成施策が画一的」といった問題を抱える企業は多い。これらを解決するためには、将来的なビジネス・ポートフォリオに基づいて今後必要となる人材をバランスよく採用し、従業員の行動特性や心理特性を踏まえた配置・キャリア目標設定・育成施策に取り組むことが大切だ。こうした考えをもとに開発された、採用マッチング&タレントマネジメントのためのサービスである。

また同社では、「MERCURICS AI」によって離職リスクを分析・予測する『タレント離職リスク分析』のサービスも提供している。

いま考えるべきはAI人事サービスの利用ではなく、AI人材の育成だ

統計学に基づく従来型の予測・意見よりも、心理学や行動科学などの人間科学をベースにした見解、しかもAIによってアウトプットされた分析の方が、説得力は大きい。上記のような人間科学×AIの融合型人事サービスは、今後も増えていくのではないだろうか。

こうしたシステム/サービスを単に利用するだけでなく、またシステムからのアウトプットに応じて施策を考えるだけでなく、データサイエンティストや、AIに対する高度な知見を持つ人材を、自社内で育成するための取り組みも開始したいところ。なぜならデータサイエンティストをはじめとするAI人材は、いまや最重要の存在であるからだ。

経済産業省による審議会・研究会の1つである『人材育成に関する産官学コンソーシアム』は、「企業の中にはその課題を解決することができる依頼先を判別できない場合や、そもそも課題を依頼先に発注できるレベルまでに整理できていない場合等が存在している」という危機感を表明。また2030年にはIT人材が約79万人も不足すると予測し、各種ITサービスの提供事業者だけでなく、そのユーザーとなる企業においても「AI等を使いこなして第4次産業革命に対応した新しいビジネスの担い手となる高度IT人材の育成が急務」と提言している。

要は「AI活用型システムを開発・提供する企業でなくとも、AIに何ができるか、どう使いこなせばいいか判断できる人材を、どの企業も確保すべき」ということだ。が、これがなかなか難しい。データサイエンティストをはじめとするAI人材には、統計学の知識、データの加工技術、プログラミングほかのITスキル、分析結果から何らかの意味を見出すことができるセンスなど、幅広い素養が必要となる。自社の実情、事業戦略・経営方針、業界の全体図などにも精通していなければならない。このような人材はそうそういるものではなく、企業による奪い合いになっているのが現実だ。

人材市場に見当たらないなら、社内で育てるしかない。では、誰を、どのように育成すればいいのだろうか。そう、適性判断、研修のアレンジ、配置・配属などについては、まさにAI活用型の人事データ管理クラウドシステムや、人間科学×AI融合型人事サービスを利用すればいい。いわばAI人材・IT人材の効率的な育成のために、AIのパワーを借りるのだ。その取り組みをいち早くスタートさせることが、IT人材不足時代を生き延びるために必要な姿勢ではないだろうか。

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