AI×HRテクノロジーの最前線3:人工知能が採用・管理・配置を変える! ~タレントマネジメントなどの人材管理ツール編~

経歴や資格など全社員のデータを一括管理することで、適材適所の配置や効果的な人材育成に生かす“タレントマネジメント”。いまもっとも注目を集めているこの手法に、AI技術を応用する動きも現れはじめている。ビッグデータの分析を得意とするAIは、膨大な社員データの利活用にも大きな力を発揮するのだ。AI+人材管理という方法論のメリットを見ていこう。

人事データを統合して管理する企業が増えている

従業員の氏名・住所・生年月日といった基本的な情報から、勤続年数・勤怠、役職とその履歴、人事考課、家族構成……。企業の人事部門では多くのデータを扱い、それらのデータからは主として、給与・賞与、各種社会保険料や税金などの額がアウトプットされる。

ここに、従業員個々の詳細な業務履歴、身につけたスキルや資格、研修の受講歴、上司・周囲・本人による評価、性格診断やモラルサーベイ/エンゲージメントサーベイの結果、キャリアプランなど、多彩なデータをプラスする動きが広まっている。目的は、あらゆる人材情報をデータ化・可視化・一元化し、人材の配置・育成・評価・採用を戦略的に推し進めること。“タレントマネジメント”と呼ばれる人材管理手法である。

タレントマネジメントの運用においては、膨大な量のデータを都度更新しながら一元管理しなければならず、また人事だけでなく各部門の上長も利用できる体制を作る必要がある。こうしたニーズに応えるHRシステムやサービスが急速に普及している。

●「タレントパレット」(株式会社プラスアルファ・コンサルティング)
https://www.talent-palette.com/

●「カオナビ」(株式会社カオナビ)
https://www.kaonavi.jp/

●「Workday」(ワークデイ株式会社)
https://www.workday.com/ja-jp/homepage.html

これらのシステム/サービス内に刻一刻と蓄積される各社員のデータは、人事や各部門のマネージャーによって分析・比較・検討され、優秀人材の抽出、計画的な育成、異動・最適配置、モチベーション/エンゲージメント/メンタルヘルスの管理などに役立てられることになる。

莫大なデータの分析・活用はAIが得意とするところだ。タレントマネジメントにおいても、その情報処理をAIに担当させることのメリットが提言されるようになってきている。

AIはタレントマネジメントとの親和性も高い

AIであれば、従業員の経歴や資格、これまでの評価、性格判断・適性判定の結果、さらには社内SNSや報告書に書き込まれた文章など、あらゆるデータを短時間で分析することが可能だ。と同時に、各部署の事業計画・資金計画、業務内容、現在所属するメンバーの特徴なども、たちどころに解析してみせる。AIはそれらを総合的に判断し、たとえば「Aさんは開発部門に回した方が活躍できる」「B to B営業部のハイパフォーマーに共通する特徴を発見。同じ特徴を持つ人材が経営企画室にいる」……など、最適な配属マッチングをアウトプットしてくれるのだ。

また「Bさんは同期の中ではスキルも経験も秀でた人材だ」「経歴と適性判定の関連性から、Cさんは若手の部下を率いた方がより成長できる」「今後の経営戦略を考えた場合、英語による交渉力に秀でた人材が不足している」といったAIによる分析結果をもとに、個々の人材育成方針、あるいは採用計画を立案することも可能となる。

離職防止にもAIは有効だ。まずは過去の退職者データをAIに学習させ、その特徴を抽出。モチベーションやエンゲージメントの変化、年齢、異動歴、勤怠・素行などを分析することで、どのような人が離職しやすいのかがわかるはずだ。次に、現在の社員に同じような特徴を持った人がいないかを診断。離職・退職の可能性「大」と判定された人材に対しては、重点的にフォローしよう、ということになる。

AIの公正さにも期待は集まる。昇給や賞与にかかわる人事考課・評価はフェアでなければならない。が、マネージャーによって評価基準が異なったり、好き嫌いが無意識のうちに評価へ影を落としたりといったことも考えられる。そこでAI。勤怠、成果、周囲の声などをAIが統一された基準で分析・判断することで、公平・公正な評価が可能となる。

人手不足と採用難に悩まされている時代において、限られた人材の最適配置、経営戦略に基づく社員の育成および採用計画は必須だ。自社への貢献と自身の成長を実感できることによるモチベーションアップ、その効果としての離職率低減、退職予備軍の引き留めも至上命題といえる。それを手助けしてくれるのがAIというわけだ。

AIによって各種業務を自動化すれば、人事部門やマネージャーの負担は大きく軽減され、創出された時間やパワーを別の業務にあてて生産性を上げることもできる。タレントマネジメント×AIのコンビネーションは、現在のビジネス環境との親和性が高く、企業の存続と成長にとって不可欠な人材管理手法となりつつある、といえるだろう。

AI活用型タレントマネジメントを組織改革と人材育成の契機にする

タレントマネジメントにAIをプラスしたHRサービスや事業をいくつか列挙しよう。

●「リシテア/AI分析」(日立ソリューションズ)
https://lysithea.jp/service/analytics/
就業管理、人財戦略、人事給与管理、工数管理、健康管理、諸届や申請業務の電子化など、人事・総務関連業務をサポートするパッケージが「リシテア」。多彩なデータをAIで分析するサービスも提供されており、組織ストレスの予測、組織パフォーマンス診断といった人財マネジメントを実現する。

●「HERO」(KPMGジャパン)
https://home.kpmg/jp/ja/home.html
KPMGジャパンは、監査、税務、アドバイザリーを3本の軸とするコンサルティング・カンパニーで、AIを活用した各種の業務改革支援にも取り組んでいる。HR部門でいえば「HERO」と名づけられた独自のAIによって、社員個々の特徴、各部署における業務の特徴を抽出・分析し、最適な配属マッチングを提案するソリューションを手がける。

●「HR君」(エクサウィザーズ)
https://exawizards.com/service/HRkun
企業内の人事データを学習し、特徴を抽出・分析することで、人材配置案の作成、休職者・退職者の予測、採用合否予測などをアウトプットするクラウド型の人事支援サービス。

●セコムかんたんシフトスケジュール(セコムトラストシステムズ)
https://www.secomtrust.net/service/HRtech/shift.html
警備などで知られるセコムが提供する、AIによるシフト表自動作成クラウドサービス。スタッフの希望勤務時間をAIが集計してスケジュールを組んでくれる。さらに、上記「HR君」を手がけるエクサウィザーズおよび牛丼チェーンの吉野家との共同開発で生まれた「AIリコメンド(候補者推薦)機能」による勤務シフトの調整支援機能を搭載。シフトに入れそうなメンバーを選定し、どう交渉すればいいかアドバイスもしてくれる。タレントマネジメントとはいえないが、AIのユニークな活用例だ。

ただ、こうしたAI活用型タレントマネジメントサービスを導入したからといってあらゆる人事課題が即座に解決するわけではない。

AIは、さまざまなデータを学習し、人の目には見えない特徴や傾向を解き明かすことが本領。十分なデータインプットがなければ有効なアウトプットは得られない。どんなデータを学習させればいいのか、AIが提案する最適配置や離職危険度予測をどの程度信じるべきか、アウトプットに対する具体的なアクションは何がベストか、企業ごとに試行錯誤しながら有効性を高めていくべきものだといえる。

またAIやタレントマネジメントに関して十分な知識を持ち、かつ人事業務の経験が豊富な人材がいないと、導入が滞る、上手く活用できない、現場との連携が取れない、といった問題が発生する恐れもある。導入と同時に、あるいは先駆けて、AIおよびタレントマネジメントに精通した人材を育成する必要もあるだろう。前述の通り、AIによる自動化は関連部署に余力を生み出す。その余力を、決してAIに肩代わりさせることのできない業務にあてることも考えなければならない。メンタルケアなどの対人スキル、コミュニケーション能力、独創性あふれる企画力などを向上させる社員育成プランも必要となってくるはずだ。

AI活用型タレントマネジメントの導入は、あくまでも、よりよい組織作りへ向けての改革・人材育成のスタートであると考えたいところである。

事例・調査データの人気記事

まだデータがありません。