最新の脳科学、人工知能、ITの進化で、人事はどう変わるのか(HR SUMMIT2016 AFTER REPORT)

囲碁で世界的に有名なプロ棋士に勝つなど、何かと話題になっているのが人工知能です。一方、脳科学もバラエティ番組で紹介されるなど、ずいぶんと身近な存在になってきました。人工知能と脳科学─ 一見人事とは無関係なようですが、そうではないようです。このセッションでは、人工知能と脳科学で、人事がどのように変わる可能性があるのかを考えてみます。

【イントロダクション】
岩本隆氏

本日はパネルディスカッションのモデレーターをさせていただきます。

私は人材マネジメント論をこの4年ほど研究してきました。最近では、ビッグデータの統計分析が進んで、我々のところでも研究に取り入れています。今後は、機械学習、ディープラーニング、IoH(インターネット・オブ・ヒューマン)、行動科学なども入ってくることでしょう。最終的には脳科学をベースに人材マネジメントをサイエンスに仕上げていけると面白いと思っています。
山川さんと石山さんはHRだけではなく、幅広い分野の研究をされていますが、パネルディスカッションではHRテクノロジーの将来について議論できたらと思っています。

ちなみに、日本ではまだそれほどHRテクノロジーというものは広まっていませんが、グローバルでいろいろな分野で使われるようになってきています。イントロダクションとしましては以上です。次は石山さんにバトンタッチしたいと思います。


[講演1]
株式会社リクルートホールディングス
Recruit Institute of Technology推進室 室長 石山洸氏

リクルートが人工知能の研究に力を入れる理由

リクルートが人工知能の研究所を作りました。まずその理由から説明させていただきたいと思います。
リクルートは、雑誌の求人広告からスタートしました。それがフリーペーパーになり、パソコンになり、フューチャーフォン、スマートフォンになり、次はAIやIoTにシフトしていくと予測しています。

また、リクルートはひとつの目指す姿として2020年に人材ビジネスでグローバルナンバーワンになることを掲げています。海外にはテクノロジーに強い会社がたくさんあります。当社はテクノロジーのレベルでも世界でナンバーワンになりたいと思っています。そこで、10年ほど前からいわゆるデータサイエンティストの採用を始めて、国内ではかなり優秀な人が集まりました。グローバルでもナンバーワンの人材を集めたいと考えています。

これらが人工知能の研究所を作った理由ということになります。
今、いろいろな研究をしています。たとえば、先日、人工知能が囲碁のチャンピオンに勝つということがありました。その時、新しい定石を人工知能が作っていたという話がありました。人材のマッチングの世界も同様です。配属を決めたりする際にも定石があるかと思いますが、人工知能を使うことで、少しずつ新しい定石が見つかってきています。

ほかには、オフィスのなかでどのようなコミュニケーションが起きたら、その会社でイノベーションが起きやすくなるかという研究も人工知能を使って行われています。

誰でも人工知能が扱える時代に

とはいえ、一般の企業で人工知能を活用するのはまだまだ難しいとお考えの方がほとんどではないかと思います。そうではなくなりつつあります。
企業Aには人工知能の研究者が10人くらいいて、随時50くらいの人工知能のプロジェクトを回し、その成果を少しずつ人材マネジメントに取り入れているとします。一方、企業Bにはエクセルを使うくらい簡単に人工知能が扱えるプラットフォームが用意されているとします。誰でも扱えるので常時5000くらいのプロジェクトが回っています。どちらの企業が勝つかは明らかですね。

我々の最初のステップは、そういった誰でも人工知能が扱えるプラットフォームを作ることでした。「レンジでチンする人工知能」と呼んでいるんですが、エクセルのデータをドラック&ドロップし、項目を選んでボタンを押すだけで、いろいろな予測ができるというようなツールで、もちろん、今後も研究開発を進めるものの、すでに十分に使えるものができています。

現在はむしろ、そういったツールで何ができるかを考えるというステップに入っています。たとえば、当社のSPIのデータや面接時の受け答えのテキストデータなどを使って、入社後5年で「活躍人材」になる人を予測するという研究もその一つです。活躍人材とは、給与が上位20パーセントに入る人と定義していますが、85パーセントくらいの精度で当たるようになってきています。
これを利用してリクルーティングを行えば、採用効率が上がります。また、これから必要になる分野に活躍人材になり得る人を集中するということもできます。

ほかには、我々、5年前にうつ病の人のための行動記録アプリ「うつレコ」というもの出しているんですが、このデータを使った研究も行っています。直近2週間のデータから次の1週間の気分を80パーセントくらいの精度で予測することができるようになってきました。具合が悪くなりそうだから、業務量を減らして再発を防止するといったことも人工知能を活用することでできるわけです。

今後、さまざまな形で人工知能を活用すれば、人間が働くなかで生じるマイナスをゼロに、ゼロをプラスにすることができると考えています。
以上です。ありがとうございました。それでは、次は山川さんお願いします。

photo01

レポートはまだ続きます。気になる講演の続きはログインしてお楽しみください。

prof01石山 洸 氏
株式会社リクルートホールディングス
Recruit Institute of Technology推進室 室長

2006年、東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻修士課程修了し、リクルート入社。インターネットマーケティング室などを経て、全社横断組織で数々のWebサービスの強化を担い、新規事業提案制度での提案を契機に新会社を設立。事業を3年で成長フェーズにのせバイアウトした経験を経て、2014年、リクルートホールディングスのメディアテクノロジーラボ所長に就任。2015年より現職。


prof02山川 義徳 氏
内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT) プログラムマネージャー

2000年京都大学理学研究科修了。2000年より日本電気株式会社インターネット事業戦略室、経営企画部主任にて新規事業開発に従事。2008年京都大学大学院人間・環境学研究科修了博士(人間・環境学)。2008年より京都大学情報学研究科GCOE助教にてサービス・イノベーション及びニューロエコノミクスに関する研究・教育に従事。2010年よりNTTデータ経営研究所ニューロマネジメント室長にて脳科学を用いた経営コンサルティングに従事。その他、京都大学経営管理大学院非常勤講師、神戸大学経済経営研究所リサーチフェロー。株式会社アラヤ・ブレイン・イメージング代表取締役を兼務。2014年より現職。


prof03岩本 隆 氏
慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授

東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)工学部材料学科Ph.D.。日本モトローラ株式会社、日本ルーセント・テクノロジー株式会社、ノキア・ジャパン株式会社、株式会社ドリームインキュベータ(DI)を経て、2012年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)特任教授。

イベント・フォーラムの人気記事

まだデータがありません。