体力を使って従事する「肉体労働」、知力を使って従事する「頭脳労働」に対して、近年、増加しているといわれるのが、感情を商品として提供する労働形態、「感情労働」です。

もともとはアメリカの社会学者A.R.ホックシールドが提唱した働き方の概念で、「相手に感謝や安心の気持ちを喚起させるような、公的に観察可能な表情や身体的表現をつくるために行う感情の管理が必要な労働」が感情労働であると定義されています。

その特色は、生身の人間(顧客)を相手とする労働であり、感情の抑制、鈍磨、緊張、忍耐などが絶対に不可欠なものとして要求されること。理不尽なことで責められたり、攻撃的な言葉を投げつけられるたりするようなことがあっても、常に感情をコントロールし、冷静に笑顔で応対する、あるいは相手の納得が得られるまで丁重に謝罪や説明を繰り返すといったことが求められます。

A.R.ホックシールドが感情労働の代表的な職業の一つとしたのは、航空会社の客室乗務員。そのほかにも、飲食店や小売店、各種サービス産業の接客業、看護師、企業のクレーム対応部署やカスタマーセンターのオペレーター業務、コールセンターの電話営業などが挙げられ、最近では、モンスターペアレントに対応しなければならない教師の仕事も感情労働化しているといわれます。

感情労働が増えてきた背景には、サービス産業が拡大していることや、顧客満足度の向上を追求する傾向が強まってきていることなどがあります。そしていま、感情労働の問題点とされているのは、肉体労働や頭脳労働とは異なり、疲労がたまっても休めば比較的簡単にリフレッシュできるわけではないということ。感情労働の従事者が、休日を過ごしてもダメージを回復できないまま出社し、ストレスが蓄積されてメンタルヘルス不調に陥ってしまうケースは少なくないといわれます。

企業や組織の人事部門としては、感情労働の特殊性を理解し、従事する人に感情をコントロールするトレーニングを実施したり、メンタルヘルス不調を未然に防ぐケアやサポートを行ったりすることが必要になってきます。