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年次有給休暇取得率を上げるには? -長期休暇のすすめ-

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2014年08月26日

マーサー ジャパン株式会社

インフォメーション・プロダクト・ソリューションズ アソシエイト・コンサルタント   三条 裕紀子

10月20日に発表された厚生労働省実施の「就労条件総合調査」によると、2010年1年間の年次有給休暇の取得率は48.1%、日数として平均8.6日とのことである。この調査は、常用労働者が30人以上の民営企業を対象に毎年行われており、調査結果は1984年(昭和59年)からあるのだが、取得率は50%前後を推移していて、27年間ほとんど横ばいになっている。産業別・企業規模によっても異なるが、大半が60%から40%の間に納まっている。

近年では「ワーク・アンド・ライフ・バランス」という言葉も定着しつつあり、有給休暇の取得促進に取り組む企業のことが新聞に取り上げられることも多いので、数値としてもっと顕著に現れても不思議がないのだが、世の中は驚くほど変化していなかった。ちなみに、他国の状況はというと、エクスペディア・ジャパンという旅行会社が毎年実施している「有給休暇調査」の2010年の結果によると、フランスの93%(付与日数37.4日中34.7日取得)をはじめ、欧州各国は90%を超え、低くてもアメリカ83%、イタリア82%となっている。対する日本は56%(付与日数16.6日中9.3日取得)と、他国に比べて極端に低い数値が出ており、厚生労働省の調査とデータソースは異なるものの、取得率が50%前後、という同じような結果となっている。ところで、有給休暇平均取得日数8.6日という数字を考えてみる。8.6日のうち、夏休みとして一週間休暇を取得すると5日間。残りが3.6日であるが、やむを得ないときに休んだり、連休や年末年始にからめて休みを数日取ると、だいたい3~4日くらい消化できるだろうか。
 
そうなると、残った10日間は使わずに終わることになる。あるいは、完全に消化する人もいれば、まったく取らない人もいるかも知れない。業務内容や、職場環境によっても大きく左右されることも考えられる。年次有給休暇は、労働基準法第39条に定められているとおり、労働者に賃金の減収を伴わずに所定労働日に休養させることを目的とした休暇制度である。休暇を取得する理由は問わず、事業の正常な運営を妨げる場合以外は労働者の指定した日に休みを与えなければならない。休暇を取らない代わりにその分賃金をもらうこと(買い上げ)は、「所定労働日の労働義務を消滅させる」という趣旨からはずれるため、認められていない。しかし、一方で「取得率」までは踏み込まれておらず、実質上個々の従業員の裁量にゆだねられている。そこに「取得率」の横ばい状態の原因の一部が垣間見える。従業員の立場としては、現実的には職場が休みを取りにくい雰囲気だったり、休むことで結局は仕事がたまる一方だったり、また人が足りずほかの誰かに迷惑をかけるとわかっている場合、休めないのである。労働基準法により「休暇の理由は問わない」とされている年次有給休暇だが、上記にあげたもろもろの事柄を考えると、よほどのことがない限り、通常の時に休みを取ることを躊躇するのが実情だと思われる。そこで、取得日数をもっと増やすためには、会社が主導した思い切った方策が必要と考える。たとえば、ひとつの案として、会社が「長期休暇取得の促進」を提案するというのはどうであろうか。長期といっても、現実的に考えると2週間程度が限度かもしれないが、1週間取っている夏休みをもう1週間延ばしてみる、仕事がひと段落した時期にまとめて休んでみる、といった具合である。従業員がみずから長期休暇の申請をすることは勇気が要り、なかなかできることではないというのは前述の理由の通りであるが、会社が促すことで、「休みを取る」環境ができるし、まとまって休むことで取得率の上昇にもつながる。また、長期休暇を取得する利点を筆者は次の通り考える。まず、従業員の立場から見ると、次のことが言える。

1) まとまった期間職場から離れることで、通常とは異なる生活リズムを体験したり、仕事以外のことに時間を使うことを考えるようになる。
2) 休暇中、同僚に仕事を頼むことが前提となるので、誰でもわかるように仕事を進めるようになる。
逆に、休暇中の同僚の仕事を代わってやることで、仕事の幅を広げる機会となる。
3) 休む期間分だけ業務の時間が少なくなるため、効率よく仕事をするよう心がけるようになる。

自分がいなければ業務がまわらない、自分の担当の業務は自分のやり方でやっているからどんなに忙しくてもほかの人にまかせられずに一人で仕事を抱え持つ、といった、組織や本人にとって不健全な状況に陥ることから防ぐこともできる。また、まとまった期間休むことで、心身の完全な休養も期待できる。

会社側からみても、休養してもらうことで、生産性の向上が期待されるし、長い休みを与えるにあたり、個々の業務状況や内容を把握し、業務の見直しをするきっかけにもつながる。また、「その人しか知らない」という状況を作らないことで、BCP(事業継続計画)の体制を整えることがスムーズになり、危機管理にもつながる。上司が休暇を取得し、その期間中の仕事を部下に任せることになれば、その休暇がサクセッション・プランの一環として活用されることも考えられる。

つねにその人がいる状態が当たり前であり、その人のやり方で、その人しか知らないということになると、本人にとってはうまく回っているときなら問題ないのかもしれないが、逆に代わりがいないという状態が精神的に追い込むことにもなりかねない。会社にとっても、その人が病気などで仕事ができないときに対応することが難しくなる。誰かが代わりに対応できるという体制を作ることで、会社も休暇を与えやすくなるし、従業員も気兼ねすることなく休みを申請することができるようになる。

ここで大切なことは、休暇を取っても組織が回ることについて「人があまっている」と判断しないことである。休暇を取ることを前提にした組織体制が望まれる。また、目的は「取得率を上げる」ことではなく、「従業員に適切に休みを取ってもらう」ことにより常に健全な状態でいてもらい、会社とそこで働く従業員の双方が幸せである、ということである。
その結果があってこそ「取得率の上昇」が意味あるものになると考えている。

 

※本記事は2012年2月時点の記事の再掲載となります。

 

 マーサー ジャパン株式会社

インフォメーション・プロダクト・ソリューションズ アソシエイト・コンサルタント    三条 裕紀子

日系企業人事部を経て現職。
主に報酬、福利厚生に関する市場調査に従事し、データの分析業務を行う。また、調査データを基に就業規則の作成や変更、福利厚生制度に関するアドバイス業務も実施している。
社会保険労務士有資格者。
学習院大学文学部卒。
趣味:旅行、街歩き、食べ歩き、絵画鑑賞執筆コラム
年次有給休暇取得率を上げるには? -長期休暇のすすめ-
「パパ・ママ育休プラス」に思うこと

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