人事を変える集合知コミュニティ HRアゴラ

“安定的”に普通に働きたい

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2014年12月11日

大学生の仕事観

“安定的”に普通に働きたい。そう考える若者が増えているようだ。近年、よく耳にはしていたが、先日、私自身もそれを実感する出来事に遭遇した。

ある都内大学に講師としてお招きいただいた際、学生たちにどのような仕事観を持っているかアンケートを取った。アンケートで聞き出したポイントは、次の2点である。1つは、自分の好む仕事が、現状を安定的に継続させる「静的」なものか、絶え間なく変革や改善をする「動的」なものか。もう1つは、仕事を割り当てられたい「課業型」なのか、自分で新たなビジネス機会を作り出したい「機会型」なのか、である。

例えば動的と機会型の組み合わせであれば、自らビジネスチャンスを生み出す「機会開発タイプ」に分類される。同じ動的でも課業型であれば、既存の仕事の中で改善をする「問題解決タイプ」となる。一方、静的の場合、機会型は創意工夫しながら着実に既存事業での目標を達成する「目標達成タイプ」。課業型であれば、既存事業の業務を的確に処理していく「業務処理タイプ」となる。図1

さて、約100名の学生にヒアリングしたところ、業務処理タイプに分類される「静的×課業型」を選択した学生が約7割に上った。選択理由を尋ねたところ、ある学生は「自分は安定的に普通に働きたいので、『静的×課業型』を選んだ」と答えた。
 

安定を作る力と再現性

安定的。一口に言うが、そもそもその“安定”は誰が作り上げてきたものなのか。就職人気ランキング上位に挙がる大企業などのように、今は安定的に見えるビジネスであっても、かつては不安定な時代があり、それを安定的に回せるよう仕組みや方法を構築してきた先人がいる。また、現状安定的であっても、いずれ不安定になることだってある。安定していたものがいつ崩れるか分からない現代だからこそ、既にある安定の上に乗っかるよりも、不安定なものを安定させる力を身に付けることのほうが、ずっと自身の“安定”を盤石にできるのではないだろうか。そうした力を身に付けること、そして、そのためにどうキャリアを歩んでいくかを考えることが非常に重要である。

一方、ビジネス現場では、組織を安定に導いた者が中心的人物として存在している。しかし彼らは、安定させた組織が苦境に陥った際、自身の過去の成功体験におけるやり方を組織員に強制し、さらに組織を悪化させてしまうケースが散見される。このようなケースをよく見てみると、過去の成功体験自体がその時の環境の良さの恩恵であったり、商品の新規性が市場に偶然ウケただけであるような場合が多い。これでは、組織を安定させる手法を、彼らが本当の意味では身に付けていなかったと言わざるを得ない。すなわち、不安定を安定に変える力には、「再現性」がなければ意味がないのである。

米GE社では、この再現性をきちんと見抜くため、入社10年目以降のリーダー候補者たちに対し、十数年かけて様々なチャレンジングな仕事と機会を与え、その様子を見て、「状況が変わっても何度でも不安定から安定を作り出せる人材であるか」を見極めているという。また、この経験は同時に、強いリーダーを育む機会提供にもなっている。

ほとんどの日本企業は、これまでこうした良質な経験・チャンスを社員に与えてこなかった。冒頭に見たように、10年後20年後に社会や経済を担うことになる20代は、その多くが既にある「安定」に乗る働き方を希望しているようだ。一方、企業に求められるのは、何度でもどんな状況でも、新たな「安定」を作り出せる力のある人材だ。これから10~20年後に自社で主力となる(価値を創り出せる)人材を見据えるならば、どんな力が必要なのかを社員に若いうちから明確に提示し、その力を身に付けられるような質の高い経験の機会提供をしていくことがますます重要になるだろう。

※この記事はインテリジェンスHITO総合研究所WEBサイトからの転載です。メルマガも配信中

 

<執筆者紹介>
須東朋広(株式会社インテリジェンスHITO総合研究所 主席研究員)
sudo
多摩大学大学院 客員教授、専修大学経営学科 特別講師、HR総研客員研究員。
中央大学商学部経営学科、産能大学院経営情報学研究科MBAコース(組織人事コース)卒業。法政大学院政策創造研究科博士課程在籍。2003年、最高人事責任者の在り方を研究する日本CHO協会の立ち上げに従事し事務局長を経て、2011年7月1日より現職。
最近ではミドル(中高年)のキャリアや働き方、学びなどについてマスコミへのコメント多数掲載されている。学会発表や人材関連雑誌など寄稿多数。専門は組織行動論、人事論、雇用政策論など。

■主な著書
『CHO~最高人事責任者が会社を変える』(東洋経済新報社、2004年共著)
『キャリア・チェンジ』(生産性出版、2013年共著)

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